【高齢者の交通事故判例⑤】道路を横断中、警察車両(オートバイ)に衝突された83歳男性が損害賠償を求めて提訴した事例

【2023年3月29日更新】

(平成31年3月1日京都地裁判決/出典:交民52巻2号273頁等)

 

事故の状況

事故現場の道路には、横断歩道はなく、近くに交差点もなかった。道路上にはトラックが停止中で、トラックの物陰から、原告(被害者)が道路に出てきたところ、直進してきた被告車(オートバイ)に衝突された。

 

けが(傷害)

肝破裂、右副腎損傷、両側肺挫傷、右多発肋骨骨折、多発胸椎横突起骨折、右示指・中指腱断裂・開放骨折および右環指関節内骨折等

 

治療期間

入院4ヶ月半

 

後遺障害

自賠責保険の認定は、次の①②により併合9級

①右手指の機能障害につき併合10級相当(右示指、中指の機能障害10級7号、右環指の機能障害14級7号)
②腹部外傷後の胆のうの障害(肝損傷に伴う胆のうの摘出)につき13級11号

 

過失割合

原告(被害者)15%、被告(警察オートバイ)85%

 

判決のポイント

①過失割合

本件の事故状況では、本来、双方の過失割合は、原告(被害者)が20%、被告(警察オートバイ)80%と思われますが、裁判所は、「被害者が事故当時83歳という高齢者であり、歩行者の中でも特に保護の要請が高い」ことも考慮事由として挙げ、その過失割合を15%と認定しました。

 

② 後遺障害

被害者は、事故後の長期入院により両下肢機能が低下し、肝破裂縫合術後の廃用症候群と診断されましたが、提訴前の自賠責保険の認定では、両下肢の廃用症候群の症状は、当該部位に外傷性の異常所見や神経損傷等が認められないとの理由で、後遺障害には該当しないと判断されました。

 

そこで、原告(被害者)は裁判で、廃用症候群としての両下肢機能障害も事故による後遺障害であると主張したところ、裁判所は、主治医見解等を根拠に、「原告の両下肢機能障害と事故との間には医学的な因果関係がある」と述べ、12級7号の後遺障害(「1下肢の三大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」)に該当すると認定しました。

 

もっとも、認定された等級は12級に過ぎなかったため、全体としての等級自体は、提訴前の認定結果(併合9級)と変わりませんでした。

 

③ 介護施設費用

被害者は、事故前は2階建ての自宅で一人暮らしでしたが、事故後は施設入居を余儀なくされたため、裁判では、施設費用についても支払を求めましたが、被告側は、両下肢の機能障害を理由とする施設入所は、本件事故と因果関係がないと反論しました。

 

これに対し、裁判所は、上記のとおり下肢の機能障害を事故による後遺障害と認めた上で、退院後は、同居の介護者なしに自宅で一人暮らしをすることは困難であると述べて、施設費用も事故による損害であると認めました。

 

小林のコメント

高齢者の場合、入院により長期間ベッド上での生活を余儀なくされることにより身体機能が低下し、立位保持や歩行が困難になるなど、廃用症候群と総称される二次障害を来すことは良くみられます。

 

これは事故による直接の外傷とはいえませんが、本判決は、このような二次障害についても事故との因果関係を認めました。

 

高齢被害者保護の見地から、事故と障害との相当因果関係の有無を丁寧に検討・判断した結果と捉えることができます。

 

【2023年3月29日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか

 

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