【バイク事故判例㉔】バイク走行中、四輪車に接触・転倒し、6級後遺障害を残した79歳女性(薬局経営)が、685万円余りの支払を求めて提訴したが、既払い金により原告の損害は全て填補されているとして請求が棄却された事例【2023年3月17日更新】

(令和3年12月21日京都地裁判決/出典:自保ジャーナル2118号62頁)

関係車両

バイク(原動機付き自転車) 対 四輪車(普通貨物自動車)

 

事故態様

片側一車線道路を同一方向に進行中のバイクと四輪車の接触事故。前方道路の中央線付近を低速で走行していたバイクを後方からきた四輪車が追い抜き、その際、バイクが四輪車の後方に接触し転倒した。

 

けが(傷害)

第9胸椎及び第2腰椎椎体骨折

 

後遺障害

脊柱の著しい変形(自賠責保険後遺障害6級5号)

 

過失割合

バイク70%、四輪車30%

 

判決のポイント

①過失割合

原告(バイク運転者)側は、本件事故は、被告(四輪車の運転者)が無理な追い越しをしたために発生したのであるから被告に全面的な過失があると主張したが、裁判所は、原告も、「本来走行すべきでない中央線付近を走行し、かつ、左側には被告車がいることも容易に把握可能であったにもかかわらず、漫然と左に寄り、被告車の右後方に原告車を接触させたものであるから、左方(前方)不注視の過失が認められる。」「しかも、右に方向指示器を点灯した状態で、左に寄ったのも不適切であった。」と述べ、原告の過失割合を70%とした。

 

②逸失利益

原告の脊柱には、事故前に既に、8級後遺障害に相当する中等度の変形があったため(8級の労働能力喪失率は45%)、原告は、本件事故によって、事故前の労働能力を22%(後遺障害等級6級の喪失率67%-45%)、5年にわたり喪失したとして、薬剤師としての事故前収入をもとに、511万円余りの逸失利益を主張したが、裁判所は、①原告の収入が事故後増収していること、②既存障害の影響が判然としない事を理由に、労働能力喪失率は5%程度にとどまると述べ、逸失利益の額を108万円余りとした。

 

小林のコメント

①バイクが四輪車を追い越す際に事故が起きるケースは良くありますが、本件は逆に、バイクが追い抜かれ、しかも、バイクは道路の中央線付近を走行中だったという珍しいケースでした(バイクが道路中央に寄っていたのは右折準備のためでしたが、判決によると、右折予定地点は100㍍程先で事故現場付近では道路中央に寄る必要はなかったようです)。

 

道路交通法上は、バイクは道路の左側に寄って通行しなければなりません(同法18条1項)。本件では、バイク側に明確な法違反があった上、右折のための方向指示器を出しながら左方の四輪車側に寄ったという通常あり得ない走行をした事から、70%もの大幅な過失相殺が認定されたものと考えます。

 

②逸失利益は、事故前の収入に、事故による労働能力喪失率と労働能力喪失期間を乗じて算定されますが、本件では、労働能力喪失期間(就労可能年数)が5年であることに争いはなく、特に問題となったのは、事故によって原告の労働能力がどの程度喪失したかでした。

 

なぜならば、原告の事故後収入は息子の寄与等により増収していたからです。つまり原告の収入実態は、労働せずとも得られる薬局経営者としての収入が主であると考えられたため、原告が主張するように事故により22%もの労働能力を喪失したものとして逸失利益を算定して良いかが問題となりました。

 

また、原告は、事故前からの脊柱変形障害により既に労働能力が低下していた状態で受傷したため、本件事故により原告の労働能力がどの程度低下したかも判然としませんでした。

 

これらの疑問からは、そもそも原告には事故による労働能力の喪失はない(逸失利益は0)と認定することも可能だったと思いますが、裁判所は、労働能力喪失率は5%程度にとどまるとし、逸失利益自体は否定しませんでした。

 

③参考まで、裁判で認定された原告の総損害額は567万円余り(内訳は、主に治療費、入通院交通費、慰謝料)、70%相殺後の残額は170万円余り、170万円から既払い金481万円を控除すると、もはや原告には請求できる損害はないとされ、請求棄却判決が下されました。

 

【2023年3月17日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか

 

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