【高齢者の交通事故判例⑮】事故時72歳の男性が運転する自動車が走行中、進入してきた車両と接触した事故で、自賠責保険では後遺障害14級と認定されたものの、被害者は頸部・腰部の神経症状を理由に併合11級を主張して損害賠償を求めたが、裁判所は自賠責認定どおり14級を前提に賠償額を算定した事例
(千葉地裁令和7年6月19日判決/出典:自保ジャーナル2199号109頁)
事故状況
被害者が普通乗用車を運転し、国道を時速約40kmで走行中、高速道路から下りてきた車両が進入してきて接触しました。
両車両の右前部と左前部が接触する形の事故でした。
関係車両:普通乗用車 VS 普通乗用車
けが(傷害)
事故当日に受診した病院では、次の診断がされました。
・両肩打撲
・頸椎捻挫
・腰椎捻挫
・左大腿打撲
治療期間
約19か月(入院なし・通院治療のみで症状固定)
後遺障害(自賠責保険の認定)
頸椎捻挫および腰椎捻挫について
後遺障害等級14級(局部に神経症状を残すもの)
裁判での請求内容
被害者は、既払金458万8,166円を差し引いた約1,216万円の損害賠償を求めて提訴しました。
その理由として、
・事故後、頸部と腰部に常時痛が残った
・それぞれ後遺障害12級(頑固な神経症状)に該当する
・その結果、併合11級の後遺障害にあたる
と主張しました。
裁判の争点
本件事故は車両同士の側面接触で比較的軽微な事故であったことから、裁判では主に次の点が争われました。
1.事故により原告が受傷したか
2.後遺障害の有無と程度
3.損害額
裁判所の判断(要旨)
裁判所は、被害者の主張する併合11級の後遺障害は認めず、自賠責保険の認定どおり14級にとどまると判断しました。
その理由として、
被害者は本件事故の約4年前にも交通事故に遭っており、その時点で頸椎椎間板ヘルニアや腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄などが指摘されていたことが挙げられました。
そして、本件事故によって新たな外傷性変化や圧迫骨折が生じたことを示す客観的な医学的所見は認められないとして、事故による重い後遺障害が残ったとは認めませんでした。
損害額については、
・治療費や休業損害は労災保険給付で補填済み
・後遺障害14級を前提に、労働能力喪失5%・期間5年として逸失利益を算定
などの結果、既払金との差額として約187万円の支払いを命じました。
小林のコメント

高齢の被害者の場合、比較的軽い事故でも症状が長引いたり、後遺症が残ることは珍しくありません。本件でも、受傷自体は否定されませんでしたが、後遺障害の程度が主な争点となりました。
裁判所は、事故後に新たな外傷性変化が認められないことなどから、被害者の主張する重い後遺障害を認めませんでした。
もっとも、仮に事故前には強い痛みがなく、事故をきっかけに症状が出現した場合には、事故との因果関係を一定程度認めたうえで、既往症の影響を考慮して賠償額を減額する(いわゆる素因減額)という考え方もあり得ます。
高齢者の交通事故では、事故前からの持病や既往症との関係を整理することが重要であることを示す事例といえるでしょう。
【2026年3月23日更新】
執筆者:シエル法律事務所 弁護士小林ゆか
(平成29年6月27日大阪地裁判決/出典:交民 50巻3号796頁)
事故の状況
現場は,片側2車線,車道幅員16.6メートルの国道2号線(制限速度は50㎞/hで、歩車道が区別され、中央分離帯の上に高さ0.7メートルの防護柵があった)。
被害者は、前方右側の道路の安全を十分に確認せずに横断を開始し、急ぐことなく、右側も見ずに通行したところ、第2車両通行帯を走行してきた車両の前部に衝突し、転倒した。
車両運転者は、前方に歩行者を認め急ブレーキをかけたが、間に合わなかった。
年齢
80歳(女性)
けが(傷害)
脳挫傷等
入院等の期間
約1週間(その後死亡)
判決のポイント
判決では、車両運転者は、遠方のみに気をとられ前方左右を注視すべき義務を怠った過失があるとして、賠償責任が認められましたが、高齢の被害者にも、横断開始にあたり道路の安全を十分に確認せず、横断歩道や歩道橋によらずに横断が禁止されていた道路を横断した過失があるとされました。
道路交通法では、歩行者は、道路標識等により横断が禁止されている道路を横断してはならないとされているので(同法13条2項)、横断禁止道路を横断した歩行者は、横断が禁止されていない道路を横断した場合より過失は重くなり、本件のケースでは、歩行者の過失は25%~30%になるでしょう。
しかし、歩行者が高齢者だったので、裁判所は、「亡Aは本件事故当時80歳と高齢であり,運動能力や認識能力の低下を考慮して,一定程度,道路交通上の義務が軽減される。」との理由で、その過失を20%と認定しました。
小林のコメント
被害者は、買い物をした後、道路と反対側にある停留所に向かうため、防護柵の隙間を目指して横断を開始したようです。
日頃から近道として利用していたのかもしれませんが、不幸な結果となってしまいました。
高齢者は、若いときとは違い、危険を予見して回避する能力が低下しているので、裁判では交通弱者として扱われ、過失割合も高齢者に有利に減じられます。
(令和2年6月18日大阪地裁判決/出典:交民53巻3号736頁)
事故の状況
タクシーは、片側1車線の道路を北から南に向かい直進中、カーナビゲーションの画面に視線を移して脇見しながら進行し、進路前方を右(西)から左(東)に横断していた高齢者に自車を衝突させた。
年齢
91歳(男性)
けが
骨盤多発骨折等
入院等の期間
2日(事故の翌日死亡)
判決のポイント
裁判では、タクシー側から、次の理由で、被害者にも20%の過失があると主張されました。①被害者は横断歩道ではない場所を横断していた、②夜間のため歩行者の発見が容易でなかった。
これに対して、裁判所はまず、タクシー運転者にはカーナビ画面に視線を移し脇見をしたまま車を進行させた点で自動車運転上の基本的な注意義務違反があると述べました。また、現場付近は街灯などでやや明るく、運転者が前方注視を尽くしていれば、被害者の動向を把握することは可能で、タクシー運転者の過失は大きいと述べました。
一方、被害者についても、横断歩道ではない場所を横断歩行していた点に過失があるとしたものの、「被害者が高齢者であることをも考慮すると、過失割合は、タクシー運転者が95%、被害者が5%とするのが相当である」と、高齢者であることを考慮して、被害者に有利に過失を認定しました。
小林のコメント
判決によると、現場となった道路の最高速度は時速30kmで、タクシーの速度は時速30~37kmでした。規制内速度での走行だったこともあり、被害者が少しでも早くタクシーに気付いていれば衝突は回避できたのではないかと悔やまれます。
もっとも、本件の被害者は91歳の超高齢者だったため、タクシーに気付いたとしても、身体等の能力低下により衝突回避行動を取れなかった可能性が高いと感じます。
高齢者の交通事故の特徴は死亡率が高いことですが、本件でも高齢者事故の特徴が現実となってしまいました。
本件の道路状況からすると、過失割合の基本は被害者過失20%ですが、タクシー側に脇見運転という著しい過失があった上、被害者が交通弱者の高齢者であったことも考慮され、結果、5%という僅かな過失に止まったといえます。
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