【高齢者の交通事故判例⑦】自転車で道路を横断中の91歳女性が、81歳男性が運転する乗用車に衝突され死亡した事故について、被害女性に4割の過失が認定された事例

(令和4年5月18日名古屋地裁判決/出典:自保ジャーナル2132号120頁)

 

事故状況

事故現場は、交差点に近い片側1車線の中央線(黄色)が引かれた道路で、交差道路との関係では優先道路にあたる。

 

現場付近の防犯カメラ映像によると、被害女性は、路外の駐車場から自転車で優先道路に向かい発進し、道路手前の歩道上で優先道路の状況を確認しただけで、その後は道路状況を確認しないまま下り坂の加速を用いて道路を横断しようとし、横断開始後3秒後に衝突事故が発生した。

 

入院等の期間

翌日死亡

 

過失割合

被害女性4割、自動車運転者6割

 

判決のポイント

裁判所は過失割合の認定にあたり、防犯カメラ映像をもとに、次のとおり仔細な検討を行いました。

 

①まず、事故現場が交差点から6.1㍍と近接していたことから、「交差点を横断する場合」に準じて判断すると述べ、その上で、自転車を発進後、衝突に至るまで、被害女性が自転車を停車させることなく、横断先の優先道路の状況も何ら確認していなかったことを捉えて、被害女性には著しい過失(安全確認義務違反)があると述べました。

 

②他方、自動車側にも、衝突直前まで被害自転車の存在に気付くことができなかった点において、やはり著しい過失(前方注視義務違反)があると述べました。

 

③その他の考慮要素としては、事故の発生時刻が12月の午後4時59分頃という薄暮時間帯であった点が挙げられますが、裁判所は、急激に明るさが失われる時刻であったとして、自動車運転者が81歳の高齢者であったため道路脇から進入してくる自転車を発見する事は困難になると述べる一方で、自転車側からは乗用車の前照灯により車両の発見が容易になっていたと述べ、自動車側に有利に(つまり自動車側の過失を減じる方向で)評価しました。

 

④ただ、全体的な評価としては、自転車対自動車の事故であることと、被害者が高齢者であったことを重視し、被害者保護の見地から、「被告(自動車運転者)の過失割合の方がなお重いというべきである」と結論づけました。

 

小林のコメント

高齢化が進んだ最近は、本件のような高齢者同士の交通事故も珍しくなくなりました。

 

この点、被害者が弱者の高齢者であることは、一般に被害者の過失を減じる方向で考慮されますが、他方、加害者が高齢者の場合に、高齢であることがどのように考慮されるかはケースバイケースです。

 

加齢に伴う集中力の低下や身体機能の低下が、過失を加算する方向で斟酌される場合もあるでしょうが、本件では、事故が薄暮時間帯に発生したことから、ドライバーが81歳の高齢であったことを自転車の発見を困難にする事情として、その過失を減じる方向で考慮しました。

 

また、本件の道路状況等からすると、基本的な過失割合は50対50かと思われますが、裁判所は、防犯カメラ映像から認められる事情を仔細に検討した上で、上記のとおり本件の過失割合を40:60と判断しました。

 

因みに、裁判自体は、被害女性の相続人(子供2名)が原告となって訴訟提起し、人身損害については、葬儀代、年金逸失利益および死亡慰謝料(相続人固有の慰謝料を含む)等の損害賠償金として、各800万円余り(但し過失相殺後の金額)が認容されました。

 

【2023年8月6日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか

 

(令和4年5月26日大阪地裁判決/出典:ウエストロー・ジャパン他)

 

事故状況

原告男性が同乗する乗用車(普通乗用自動車)が駐車場出入り口手前の車道左端付近で停止したところ、後続の普通貨物自動車が、その4.4m程手前で乗用車に気づき、右にハンドルを切って避けようとしたが避けきれず、貨物車の左前角近くの側面と乗用車の右後部角付近とが接触した。

 

貨物車の速度は時速20km程度で、原告男性は事故の際、頭を振られたものの、ヘッドレストに頭をぶつけることはなかった。

 

けが(傷害)

原告男性が主張する傷病名は、頸椎症性脊髄症、脊髄損傷

 

治療期間

通院日数30日、入院18日(症状固定までの期間は事故後約1年3ヶ月)

 

後遺障害

自賠責保険の後遺障害等級認定はない(原告は自賠責保険の被害者請求をしたが支払を受けられなかった)

 

判決のポイント

裁判所は、交通事故による受傷が認められない場合は、原告の請求(治療費、休業損害、慰謝料等の損害)は全て認められないことになることから、事故による受傷の有無を中心に審理しました。
そして、概要、次の理由により事故による受傷を否定し、請求を棄却しました。

 

① 原告は、本件事故の際、頭を振られたもののヘッドレストに頭をぶつけることはなく、事故直後に特に痛みも感じず、痛みを訴えることもなかった。

 

追突時の時速、各車両の修理費が少額であったこと、各車両運転者が受傷していないこと等からも、本件事故は比較的軽微な接触事故で、原告が受けた衝撃も比較的軽微であった。

 

② 原告は、事故直後に医療機関を受診しておらず、事故を告げて医師の診断を受けたのは事故後3週間以上経った後であった。脊髄損傷の多くが受傷直後から何らかの症状を呈することが周知の事実であることに照らすと、原告の受診経過は事故による脊髄損傷の一般的な経過と整合しにくい。

 

③ 原告は、頸椎症性脊髄症の既往症を有し、本件事故の約25年前から頸椎の手術を勧められ分節型後縦靭帯骨化を患う等、外傷がなくても自然経過において脊髄症を発症する可能性があった。

 

④ 両膝崩れや両手しびれといった頸椎症性脊髄症と整合する症状が本件事故の1か月程度前から発現していた。したがって、原告が事故後に訴えた症状は、既往症である頸椎症性脊髄症が自然的経過において増悪したものと解することも十分に可能で、そのような可能性を容易に排斥し難い。

結局、本件事故によって原告が受傷したものと認めることはできない。

 

小林のコメント

高齢者は加齢による既往症を有している事が多く、交通事故後の症状が事故によるものか既往によるものかが問題になるケースが多いです。

 

本件で原告となった75歳男性は、頸椎症性脊髄症という既往症を有していていたことから、裁判では、事故を契機に頸椎症性脊髄症が悪化した否かが中心的争点となりましたが、裁判所は上記の理由により事故による受傷を否定し、事故による頸椎症性脊髄症の悪化も否定しました。

 

【2023年8月22日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか

 

(令和4年9月8日大阪高裁判決。一審は令和4年1月11日大阪地裁判決/出典:自保ジャーナル2140号93頁)

 

事故状況

現場は、横断歩道及び自転車横断帯のある交差点付近。加害車は右折乗用車。乗用車は、右折の方向指示器を出して交差点内で停止し、対向車の通過待ちをし、横断歩道等の横断を自転車や歩行者が終えるのを待って右折を開始したが、横断歩道等を約2メートル超えた地点で、自転車と衝突した。

 

けが(傷害)

頚部挫傷、腰部挫傷、肘部挫傷等

 

治療期間

裁判所の認定は6.5ヶ月

 

後遺障害

自賠責後遺障害等級14級9号(受傷後の腰部~殿部~左股関節痛、右肘痛、両手のしびれ、筋力低下に対し「局部に神経症状を残すもの」と認定)。
裁判所の認定も後遺障害14級(但し、両手のしびれは後遺障害性を否定)

 

過失割合

被害者(自転車)3割、乗用車7割

判決のポイント

①被害者過失

自転車の走行道路には一時停止線と直進禁止規制があったが、一審裁判所は、自転車は一時停止せず且つ右側に寄って横断歩道等に沿って走行することもなく直進進入したと認定し、自転車運転者が73歳の高齢者である事を考慮しても、その過失は3割であるとした。

 

被害者は、控訴審において、道路規制に従って走行していたと主張し、過失はゼロか10%に過ぎないと一審の判断を争ったが、控訴審裁判所は、衝突地点等から走行経路に関する被害者主張を排斥し、一審の判断を維持した。

 

②治療期間(症状固定日)

一審裁判所は、事故後6.5ヶ月後に症状固定したとして、その間の治療費を損害認定した。被害者は控訴審において、その後も痛み等が続いたとして事故後8ヶ月後を症状固定日と主張し治療費支払を求めたが、控訴審裁判所は、症状経過と主治医見解を理由に、被害者の主張を認めず、一審裁判所の判断を維持した。

 

③休業損害・逸失利益

被害者は配偶者である夫(75歳)と二人暮らしだった。一審裁判所は、被害者が家事全般を担っていたが、夫は退職後無職で特に日常生活に支障を生じるような心身の問題等はなかったことから夫が家事の一部を分担することは可能であったとして、事故年(平成30年)の賃金センサス女子70歳以上学歴計の平均賃金296万2200円の70%に相当する207万3540円を基礎収入として休業損害及び逸失利益を算定し、休業損害を30万0188円、14級後遺障害逸失利益を44万8869円と認定した。

 

被害者は、控訴審において、夫は結婚以来家事を一切せず事故後も身の回りのことすらしなかったことを理由に賃金センサスどおりの支払を求めたが、控訴審裁判所は、夫が自身の身の回りのことや家事の一部を分担することが可能であった以上、被害者が主張する事実は基礎収入に関する評価を左右しないとして、一審の判断を維持した。

 

④請求額と判決結果

被害者は、治療費等約200万円及び自賠責保険金75万円を受領後に、547万円余りの損害賠償金の支払いを求めて提訴したが、一審で約50万円の支払が命じられ、控訴棄却により一審判決が確定した。

 

小林のコメント

①被害者過失(事故状況)について

被害者は、前方の歩行者用信号機が青色であったため、そのまま直進して道路を横断しようと考えたようです。

 

一次的な責任は右折先の注視を怠った乗用車にありますが、裁判所の認定によると、自転車は道路規制に反する方法で横断していた以上、事故発生の責任を分担せざるを得ず、本件では、損害賠償金を3割減額されることになりました。

 

②治療期間(症状固定日)について

高齢になると、事故を契機に様々な症状が出て治療が長引くことがあり、症状固定日(治療終了時期)を巡って紛糾することがあります。

 

本件でも、治療中、主治医が考えた症状固定日を被害者が拒否した結果、その後も治療が継続されたという事情がありました。裁判では、このような事情も踏まえ、当初の主治医見解をもって症状固定日と認定されました。

 

③休業損害・逸失利益について

無職の高齢者であっても、自分以外の家族等のために家事に従事していた場合には、休業損害や逸失利益が認められます。

 

本件では、被害者の同居家族は退職した高齢の夫だけで、夫は自身で家事を担える健康状態でもあったため、被害者の家事労働は年齢別平均値の70%と評価されました。

 

控訴審裁判所は、夫が事故後も身の回りのことすら一切しなかったからといって一審裁判所の評価を左右するものではないと述べましたが、これは、専業主婦には現実の収入はないため休業損害等の算定は裁判所の評価の問題であることを明確に述べたものと解釈できます。

 

【2023年9月25日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか

 

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