【弁護士コラム】高齢の方の事故
高齢社会となり、65歳以上の高齢者が被害者となるケースも良く見られるようになりました。「お客様の声」にコメントを寄せて下さった「60代女性A.M様」もそのお一人です。
この方は、新車を購入直後に追突事故に遭って、当初は、物損示談のご相談だけでした。お怪我については、「毎日リハビリに通っているので直ぐに治ると思います」と仰っていたのですが、頸~腰の痛みや頭痛といった、むち打ちの症状が長引き、結局、後遺症が残ってしまいました(後遺症の申請をしたところ、後遺障害等級14級が認定され、この等級を前提に人身損害に関する示談をしました)。
この方のように、高齢になると、たとえ軽症であっても、予想以上に症状が長引き、後遺症が残ることが多いです。良く聞くのは、「もうこの歳になったら、あちこちガタがきてるので、治るか不安です。」とか、「お医者さんからも、年齢が年齢なので、元の状態に戻るのは難しいと言われている。」というお声です。
このように、高齢の方の場合には、後遺症が残るケースが多いです。
この他にも、高齢の方特有の問題として、一般に、次の3点が指摘されています。
第一に、既往症があるケースが多いため、賠償額を減額すべきという、いわゆる「素因減額論」が、加害者側から主張されるケースが多い事。
第二に、死亡した場合の慰謝料について、若年者より低額であるべきだと主張されるケースがある事。
第三に、無職である事が多いため、後遺症逸失利益(事故によって喪失した得べかりし利益)はないと主張されるケースが多い事です。
つまり、賠償金の減額要素が増えるのです。
しかし、第一については、例えば、大腿骨骨折の傷害を負ったところ、高齢により骨粗鬆症が進行して骨折し易い状態にあったとの理由で、賠償額を減額すべきだと主張されたケースについて言うと、高齢になればなる程骨粗鬆症の有病率は高まるわけで、高齢者にとっては普通の状態である骨粗鬆症という「素因」を理由に減額するなどということは、あってはなりません。
第二の死亡慰謝料については、誰もが年齢にかかわらず生きる喜びを享受すべきである以上、死亡による慰謝料が年齢によって違うというのは暴論です。
第三の逸失利益については、高齢でも元気に働き高額な収入を得ている方は沢山いるので、高齢であるから逸失利益がないと断定することは出来ません。
したがって、高齢被害者であっても、具体的なケース毎に、あるべき正当な賠償金を検討すべきで、実際にも、裁判実務では、たとえ加害者側から色々な減額事由が主張されたとしても、個々のケース毎に、具体的な事実認定と評価が行われています。
当事務所の弁護士である、小林のコラムです。
是非ご一読下さい。
民法改正
● 民法改正(債権法改正) の民事交通事故実務への影響
平成29年5月26日に、民法の債権関係規定を見直す法律(民法の一部を改正する法律・平成29年法律第44号)が成立し、令和2年(2020年)4月1日に施行されました。
このうち交通事故への影響が大きいのは、次の改正です。
■ 法定利率の見直し
法定利率とは
利息が発生する権利関係において、利息を支払う合意はあるけれど利息に関する約定(合意)がない場合には、法律で定められた利率が適用されます。この場合の利率を法定利率といい、民法では、従前、法定利率は年5%と規定され、且つ固定金利制がとられていました。
それが、この度の民法改正によって、「法定利率は年3%とする」と規定され、施行時において年3%に引き下げられました(改正後の現行民法404条2項)。又同時に、法定利率は変動制とされ、将来の市中金利の変動に伴い一定の指標を基準として3年ごとに変動するものとされました(改正後の現行民法404条3項以下)。
改正内容のまとめ
このように、民法改正により、①法定利率の引き下げとともに、②緩やかな変動制が導入され、さらに、これに伴い、③商事法定利率(年6%)は廃止されました。
■ 遅延損害金
民事交通事故訴訟は、不法行為に基づく損害賠償請求として提起するので、訴状には、「被告は原告に対し、金○○円及びこれに対する令和○年○月○日から支払済みまで年○パーセントの割合による金員を支払え」と記載します。このうち、「金○○円」は、請求する損害賠償金の金額ですが、それに続く「及びこれに対する令和○年○月○日から支払済みまで年○パーセントの割合による金員」というのは、遅延損害金を意味します。
民法改正以前は、年5%の固定金利制だったため、ここには「年5パーセント」と記載していましたが、民法改正により、法定利率が変動制とされたため、いつの時点の法定利率を用いるのかが問題になります。この点、改正民法では、「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率」によると明記されました(改正後の現行民法419条1項)。
ところで、不法行為に基づく損害賠償債務は、一般に、不法行為時に直ちに遅滞に陥ると解されています(最高裁第三小法廷昭和37年9月4日判決)。そこで、事故時の法定利率によって遅延損害金を算定することになります。
つまり、事故発生日が施行日前(=令和2年(2020年)4月1日以前)であれば、年5%の固定金利となりますが(改正民法附則17条3項)、事故発生日が施行日後(=令和2年(2020年)4月1日以降)の場合は、当初3年間(令和2年4/1~令和5年3/31)は年3%となります。
令和5年4/1以降の法定利率:
令和5年4/1以降の3年間においても、法定利率は3%のまま変動しないことになりました。
この結果、事故発生日が令和2年3/31までの場合は年5%、事故発生日が令和2年4/1~令和8年3/31までの場合は年3%で、遅延損害金が算定されることになります(令和8年4/1以降は未定)。
最終更新日:2023年4月29日
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士 小林ゆか
お気軽にお問合せ下さいませ

●ホーム | ●弁護士紹介 | ●事務所紹介 | ●アクセス | ●弁護士費用 |