【弁護士コラム】民法改正 その1

民法改正

● 民法改正(債権法改正) の民事交通事故実務への影響

平成29年5月26日に、民法の債権関係規定を見直す法律(民法の一部を改正する法律・平成29年法律第44号)が成立し、令和2年(2020年)4月1日に施行されました。

 

このうち交通事故への影響が大きいのは、次の改正です。

 

■ 法定利率の見直し

法定利率とは

利息が発生する権利関係において、利息を支払う合意はあるけれど利息に関する約定(合意)がない場合には、法律で定められた利率が適用されます。この場合の利率を法定利率といい、民法では、従前、法定利率は年5%と規定され、且つ固定金利制がとられていました。

 

それが、この度の民法改正によって、「法定利率は年3%とする」と規定され、施行時において年3%に引き下げられました(改正後の現行民法404条2項)。又同時に、法定利率は変動制とされ、将来の市中金利の変動に伴い一定の指標を基準として3年ごとに変動するものとされました(改正後の現行民法404条3項以下)。

 

改正内容のまとめ

このように、民法改正により、①法定利率の引き下げとともに、②緩やかな変動制が導入され、さらに、これに伴い、③商事法定利率(年6%)は廃止されました。

 

■ 遅延損害金

民事交通事故訴訟は、不法行為に基づく損害賠償請求として提起するので、訴状には、「被告は原告に対し、金○○円及びこれに対する令和○年○月○日から支払済みまで年○パーセントの割合による金員を支払え」と記載します。このうち、「金○○円」は、請求する損害賠償金の金額ですが、それに続く「及びこれに対する令和○年○月○日から支払済みまで年○パーセントの割合による金員」というのは、遅延損害金を意味します。

 

民法改正以前は、年5%の固定金利制だったため、ここには「年5パーセント」と記載していましたが、民法改正により、法定利率が変動制とされたため、いつの時点の法定利率を用いるのかが問題になります。この点、改正民法では、「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率」によると明記されました(改正後の現行民法419条1項)。

 

ところで、不法行為に基づく損害賠償債務は、一般に、不法行為時に直ちに遅滞に陥ると解されています(最高裁第三小法廷昭和37年9月4日判決)。そこで、事故時の法定利率によって遅延損害金を算定することになります。

 

つまり、事故発生日が施行日前(=令和2年(2020年)4月1日以前)であれば、年5%の固定金利となりますが(改正民法附則17条3項)、事故発生日が施行日後(=令和2年(2020年)4月1日以降)の場合は、当初3年間(令和2年4/1~令和5年3/31)は年3%となります。

 

令和5年4/1以降の法定利率:
令和5年4/1以降の3年間においても、法定利率は3%のまま変動しないことになりました。

 

この結果、事故発生日が令和2年3/31までの場合は年5%、事故発生日が令和2年4/1~令和8年3/31までの場合は年3%で、遅延損害金が算定されることになります(令和8年4/1以降は未定)。

 

最終更新日:2023年4月29日

執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士 小林ゆか

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示談交渉の代理をしていると、色々な局面で、相手保険会社の担当者に連絡する必要が出てきます。ある件で、

「休業損害を払って貰えない」

と被害者の方が言うので、大手○○損害保険の鈴木さんに電話を掛け、「被害者○○さんの代理人の小林です。休業損害の件ですが」と用件を話そうとしたときのこと、

「申し訳ありません。今ちょっとファイルが手元にありませんので、後でこちらからお掛けします」と言われ、電話を切りました。

 


ですが1日経っても折り返しがないので、再度こちらから掛け、「休業損害の件で証拠書類をお送りしましたが届いていますか?」 と言うと、今度は、「ちょっとお待ち下さい」と言って、書類を探した後で、

「ファイルが見つからないので、後でこちらからお掛けします」

と又言われ、今度こそは直ぐに折り返しがあるだろうと思い、待つことにしました。が、一向に折り返しがありません。そのうち、「何て失礼な人だろう。もう忘れているに違いない」と確信し、その一週間後に相手保険会社に乗り込みました。

 

保険会社へ乗り込む

私は保険会社の仕事もしていたので、どんなビルにどんな具合に社員さんがいるか想像がつきます。この保険会社の仕事はしたことがありませんが大体見当がつきます。業界の文化も分かります。なので躊躇なく最寄り駅からタクシーで乗り付け、廊下を歩いていた紳士に、

「○○課の鈴木さんを御願いします」
と言って案内して貰いました。勿論、用向きを聞かれましたが、

「折り返すというので一週間待ちましたが連絡を頂けないので来ました」

と言うと、渋い顔をして呼びに行ってくれました。さて、連れてこられた鈴木さんを見ると、うな垂れて、予想外に老けていたので、可哀想に感じましたが、私も引き返せません。

「いつも電話ばかりで失礼しています。あれからファイルは見つかりましたか?」

と一番言いたかった一言をぶつけました。鈴木さん、「はい」と答え、下を向いてましたが、わざわざクレームを言うために来たわけではありません。早速、肝心の用件を切り出し、

「被害者の○○さんに早く休業損害を支払って下さい。証拠書類をお送りしましたが届いていませんか?」と言うと、「届いています」と言うので、

「払うんですか?払わないんですか?」と詰め寄ると、「はい、お支払いします」と回答。
目的はその場で達成されました。

鈴木さん、まさか私が出向くとは思っていなかったでしょう。無理もありません。被害者の弁護士がわざわざ保険会社に出向くなんて聞いたことがありませんから。でも、こんなに不誠実な対応をされたのは初めてだったので、行った方が早いと即決し、行動しました。

 

■中間利息控除

死亡や後遺障害による逸失利益等(将来の利益)、将来の介護費用等(将来の費用)については、損害額の算定に当たって中間利息(その利益を取得すべき時までの利息相当額)を控除しますが、従前、その利率は年5%とされていました(最高裁第三小法廷平成17年6月14日判決)。

 

この点につき、改正民法(平成29年法律第44号。令和2年4月1日施行)は、中間利息控除に関する規定を新設し、中間利息を控除する場合は、その損害賠償請求権が生じた時点における法定利率によることを明記しました(改正後の現行民法417条の2、722条)。

 

このため、施行日以降(=令和2年(2020年)4月1日以降)の当初3年間(令和2年4/1~令和5年3/31)に発生する交通事故については、中間利息控除に用いる利率は年5%ではなく年3%となりました。

 

令和5年4/1以降の法定利率:
令和5年4/1以降の3年間においても、法定利率は3%のまま変動しないことになりました。

 

この結果、中間利息控除に用いる利率は、事故発生日が令和2年3/31までの場合は年5%、事故発生日が令和2年4/1~令和8年3/31までの場合は年3%となります(令和8年4/1以降は未定)。

 

■消滅時効

不法行為による損害賠償請求権は、「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき」は、時効により消滅します。この原則は、改正民法でも変わりませんが、「人の生命・身体を害する不法行為」については、新たに特則が設けられ、時効期間が3年から5年に延ばされました(改正後の現行民法724条の2、1項)。

 

また、不法行為の時から20年間権利を行使しないときにも消滅しますが、この期間制限についても、時効期間であると明記されました(改正後の現行民法724条の2、2項)。従って、この期間についても時効の更新や完成猶予の規定が適用されることになりました。

 

特筆すべきは、これらの規定については、交通事故が施行日前(=令和2年(2020年)4月1日前)に発生した場合でも、施行日において、3年の時効が完成していなかったとき、あるいは、20年の期間が経過していなかったときは、改正民法が適用されるという特殊な経過措置が定められたことです(附則35条)。

 

つまり、この経過措置により、本来、民法が改正されなければ3年の時効により権利が消滅したであろうケースが、時効期間が5年に延ばされたことにより救済される結果となります。これは人の生命・身体という重大な利益が侵害された場合には保護すべき必要性が高いため、権利行使の機会を確保すべきという価値判断によるものです。

 

最終更新日:2023年4月29日

執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士 小林ゆか

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