【バイク事故判例③】バイクで直進中、右折車と衝突し、高次脳機能障害(後遺障害2級)が残った38歳男性のケース
(平成29年 4月13日東京地裁判決/出典:交民 50巻6号1661頁等)
関係車両
バイク(大型自動二輪車)vs普通乗用自動車
事故の状況
バイクが片側3車線の第2車線を直進し、対面信号機の青色表示に従い交差点に進入したところ、右折車と衝突した。
けが(傷害)
脳挫傷、左急性硬膜外血腫、骨盤骨折、右鎖骨骨折、右下腿挫創等
入院等の期間
①入院9ヶ月半(283日)
②通院3年5ヶ月(実日数は94日)
後遺障害
高次脳機能障害(2級1号)。他に、視野障害(9級3号)、頭部の瘢痕(12級14号)、骨盤骨の変形障害(12級5号)による併合8級。
過失の割合
バイク20%、乗用車80%
判決のポイント
①過失割合
加害車両には、交差点内で一旦停止した後、徐行することなく、一気に右折を完了しようとした点で大きな過失があるとする一方、被害者にも、交差点を直進通過するに当たり、進路前方に右折してくる対向車両の動静を十分に注視することを怠り、かつ、制限速度を相当程度超過していた点で過失があるとし、過失割合を、被害者20%、80%とした。
②高次脳機能障害の程度
被害者の高次脳機能障害の程度について、加害者側は、継続的な服薬治療とリハビリテーションにより、単純作業であれば就労が可能な程度となっているとして、「神経系統の機能又は精神に障害を残し、特に軽易な労務以外に労務に服することができないもの」として5級2号にとどまり、他の後遺障害と併せても併合4級で、労働能力喪失率は92%にとどまると主張したが、裁判所は、被害者は、本件事故前には、会社勤めをして通常の社会生活を送っていたにもかかわらず、本件事故後は、認知障害、行動障害、人格変化が顕著で、医師らは、日常生活の全ての場面で家人の介助を必要とする状態であると診断していること等を理由に、高次脳機能障害の程度は、自賠責保険の認定どおり「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」として2級1号に該当し、労働能力喪失率は100%に達しているとした。
③入院付添看護費
被害者の母親らは、入院期間中、付添介護をしたので、裁判所は、次のように述べて、一日あたり6500円の付添費を認めた。「被害者は入院期間中、医療関係者に対して暴力を振るったり、母親らが同席しない場ではリハビリテーションを拒否したり、拒食となったり、服薬を拒否したりしていたことに照らすと、さいたま赤十字病院及び山形病院がいずれも完全看護制を採用しているとしても、付添介護の必要性が認められ、その日額は6500円とするのが相当である。」
④成年後見人報酬
事故後、被害者には成年後見人が選任され、就任後1年6ヶ月の間、被害者に支払われる自賠責保険金、休業補償給付、障害厚生年金等の管理等を行ったが、以後も成年後見人の職務を遂行する必要があり、その報酬額は月額2万円を下らないとして、被害者の生存中、月額2万円の成年後見人報酬についても本件事故による損害と認め、その額を411万円6040円と認定した。
⑤慰謝料(本人と近親者の後遺障害分)
(1)本人分 2800万円
(2)母親分 200万円
本件事故により、子に重篤な後遺障害が残り、その介護を行うことを余儀なくされたことなど一切の事情を考慮し、母親の近親者慰謝料を200万円と認定した。
(3)妹分 100万円
入院中は付添看護を行い、退院後は母親と共に被害者と同居し、声掛け、見守り、通院時を含む外出時の付添い、成年後見申立て等の援助を継続して行っていることから、親子や配偶者と同視できる程度に緊密な関係にあったとして、妹にも近親者固有の慰謝料を認め、その額を100万円と認定した。
<注>金額は、いずれも過失相殺前のもの
バイク事故の被害の特徴の最新記事
- 【バイク事故判例㉔】バイク走行中、四輪車に接触・転倒し、6級後遺障害を残した79歳女性(薬局経営)が、685万円余りの支払を求めて提訴したが、既払い金により原告の損害は全て填補されているとして請求が棄却された事例【2023年3月17日更新】
- 【バイク事故判例㉓】赤信号で停止中の追突事故により、後遺障害等級併合14級の認定を受けた被害バイクの運転者(60代男性)が、既払い金控除後の損害賠償金として2,000万円の支払を求めて提訴した事案に関し、270万円余りの支払を命じる判決が下された事例【2023年2月21日更新】
- 【バイク事故判例㉒】T字路交差点における右折バイクと直進バイクとの衝突事故。直進バイクの所有者と運転者が原告となり、車両損害と人身損害等の賠償を求めた事案
- 【バイク事故判例㉑】直進中のバイク同士の出会い頭衝突事故により高次脳機能障害の後遺症が残った被害者(40代男性)に関し、被害者過失を2割と判断し、被害者の子らの慰謝料請求を否定した事例。
- 【バイク事故判例⑳】直進バイクと右折車の衝突事故において、早回り右折をした右折車の過失と、速度超過のバイクの過失を比較衡量し、過失割合をバイク15、右折車85とした事例
- 【バイク事故判例⑲】バイクで直進中、路外の車庫に進入しようとした右折車と衝突し、右腕を骨折し変形障害(後遺障害12級)が残ったケース
- 【バイク事故判例⑱】信号機のない十字路交差点において,直進バイクと直進自動車とが出合頭衝突した事故において、バイク運転者(女性)の眼の症状については後遺障害を否定したが、眼の症状が軽快するまでに被った精神的苦痛を斟酌し、請求額以上の傷害慰謝料が認められたケース
- 【バイク事故判例⑰】山間道路を2人乗りで走行中、剥離したコンクリート片を跳ね上げ、バイクが損傷。転倒を回避した際に、左手TFCC損傷の傷害を負ったとして、道路を管理する県を被告として訴訟提起したが、県の責任は認められたものの、TFCC損傷との因果関係は否定されたケース
- 【バイク事故判例⑯】第2車線から進路変更してきた加害車両との衝突事故。 事故後、後遺障害12級を前提とする示談が成立したが、示談成立の6年後に、自賠責保険への異議申立ての結果、高次脳機能障害により後遺障害等級7級と認定され、追加支払を受けた20代男性会社員のケース
- 【バイク事故判例⑮】バイクで直進中、交差点で出会い頭衝突をし、顔面に醜状障害(後遺障害12級)が残った44歳男性のケース
- 【バイクの交通事故判例⑭】バイクが加害車両の後方から同方向に進行中、衝突し、大腿部の瘢痕(後遺障害14級)が残った37歳女性のケース
- 【バイク事故判例⑬】運転する原付バイクが停止車のタクシーのドアに衝突し、握力低下等(後遺障害14級)が残った33歳男性調理師のケース
- 【バイク事故判例⑫】バイクが狭い道路を走行中、対向四輪車と衝突し、生殖器の障害等(後遺障害10級)が残った30代女性のケース
- 【バイク事故判例⑪】高速道路で車線変更車がバイクに接触し、視力障害(後遺障害8級)が残った46歳男性のケース
- 【バイク事故判例⑩】赤信号を無視して交差点に進入した加害車両がバイクに衝突し、高次脳機能障害(後遺障害1級)が残った40代男性のケース
- 【バイク事故判例⑨】バイクで直進中、路外施設に進入しようとした右折車と衝突し、鎖骨骨折後にCRPS様の難治性疼痛(後遺障害12級)が残った50代男性のケース
- 【バイク事故判例⑧】バイク走行中、追越し車に衝突され、右膝の靱帯損傷による右膝痛等(後遺障害12級)が残った33歳女性のケース
- 【バイク事故判例⑦】バイクで直進中、右折車と衝突し、顔面醜状や味覚障害等(後遺障害11級)が残った29歳男調理師のケース
- 【バイク事故判例⑥】バイク走行中、交差点を右折した際、対向直進車と衝突し、股関節の機能障害(後遺障害12級)が残った28歳女性のケース
- 【バイク事故判例⑤】バイクで走行中、車線変更しようとして駐車車両に衝突し、両下肢麻痺の後遺障害(後遺障害2級)が残った男子大学院生のケース
- 【バイク事故判例④】直進中のバイクが、対向転回車に衝突され、右膝・右足関節の機能障害等(後遺障害併合6級)が残った46歳男性のケース
- 【バイク事故判例②】バイクで直進中、転回車に衝突され(過失ゼロ)、顔面に醜状障害(後遺障害12級)が残った19歳男性のケース
- 【バイク事故判例①】バイク直進中、右折車と衝突し、手・足に機能障害や疼痛(後遺障害併合10級)が残った40代男性のケース
- バイク事故の被害の特徴(警視庁の統計から)