【バイク事故判例⑦】バイクで直進中、右折車と衝突し、顔面醜状や味覚障害等(後遺障害11級)が残った29歳男調理師のケース
(平成25年11月13日東京地裁判決/出典:交民 46巻6号1437頁等)
関係車両
バイク(普通自動二輪車)vs普通乗用自動車
事故の状況
信号機の表示に従い交差点を直進したバイクが、右折禁止場所である交差点を右折しようとした自動車の左側面に衝突した。
けが(傷害)
顔面骨多発骨折(頭蓋底・上顎骨・鼻骨・頬骨・蝶型骨骨折),歯牙損傷,脳挫傷(味覚・嗅覚麻痺),右下腿内顆骨折,右結膜下出血
入院等の期間
①入院2ヶ月(60日)
②通院約1年3ヶ月(実日数は107日)
後遺障害
嗅覚障害(12級)、歯牙破折による歯牙障害(13級5号)、顔面の醜状障害(14級10号)により、併合11級
過失の割合
バイク5%、乗用車95%
判決のポイント
①過失割合(過失相殺)
本件交差点は道路標識により右折進行が禁止されていたにもかかわらず、加害者は道路標識に気づかないまま右折進行した上、交差点内においても対向車線の見通しが良くない状況であったにもかかわらず、左前方を注視せず、バイクと衝突するまで、対向車線を進行してくるバイクに気がつかなかったとして、本件事故は、専ら加害者の右折禁止義務違反及び左前方の注視義務違反によるとする一方で、被害者においても、交差点内を通行しようとする際の運転者の注意義務や安全運転義務を全く免れるものとすることもできず、仮に、その衝突直前まで右折進行してくる加害車に全く気づかなかったとしても、それ自体に過失を認めざるを得ないとして、5パーセントの過失相殺を認めた。
②逸失利益
被害者は、事故当時、飲食店勤務。和食の飲食店を自ら開店する夢を持ち、店主の了解も得て勤務していたが、本件事故により嗅覚脱出に陥ったため、事故前と同じ飲食店での勤務や将来の和食の飲食店開店を断念せざるを得なかったことから、当該後遺障害により労働能力を一部喪失したものと評価すべきであるとして、その労働能力喪失率は14%に及ぶとし、労働能力喪失期間を38年として逸失利益を算定した。
③慰謝料(後遺障害分)
本件事故により被害者が将来の夢であった和食の飲食店の開店を断念せざるを得ず、調理人として生きていくこともできなくなったことをも考慮して500万円の後遺障害慰謝料が認められた。
小林のコメント
裁判所は、歯牙障害や顔面の醜状障害による逸失利益は否定しました。嗅覚障害についても、一般的には労働能力の喪失に直結しないため逸失利益まで認めれるケースは多くないところ、本件では、被害者が調理師であったこと、和食店を開店するという将来的な予定があったことを重視して、嗅覚障害(12級)の労働能力喪失率である14%をそのまま用いて逸失利益を算定しました。
また、後遺障害慰謝料の算定にあたっても、当該事情を斟酌して11級の通常の慰謝料(420万円程度)の2割増しの慰謝料が認定されました。
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