バイク事故の被害の特徴(警視庁の統計から)
バイク(オートバイ、二輪車、原動機付自転車、単車)に乗車中の事故は、ヘルメット以外に身体を守るものがないため、重症化しやすいです。
警視庁の交通事故統計(2020年中)によると、最悪の結果を招く原因となる損傷主部位は、頭部、胸部、腹部が大部分を占めるそうです。また、死亡事故の25パーセントで、事故時にヘルメットが脱落していたそうです。
このため、被害を軽減させるには、
①ヘルメットのあごひもをしっかり締める
②胸部プロテクターを着用することが大切である
と呼びかけられています。
よくあるバイク事故のケース
バイク事故の賠償問題を扱う中で多いと感じるケースは、交差点における直進中のバイクと右折自動車との衝突事故です。その他にも、自動車の左側にいて開いたドアにぶつけられたり、車線変更時の接触事故などが見られます。
バイクは車体が小さいので、自動車からは見えにくく、特にバイクが後方から走行してくると、後方への注視が十分でない事と相俟って、事故になりやすいのだと思います。
バイク事故の様々な怪我
バイク走行中の衝突は全身への衝撃が大きい上、転倒を伴うため、頭部外傷や骨折(足・鎖骨・肋骨等)、腕・肩~手首の脱臼や神経損傷など、様々な部位に怪我を負う事が多く、怪我も、生活への支障が大きな怪我が多くなりがちです。
バイク事故の治療の長期化
バイク事故では、骨折治療のために複数回の手術を受けたり、頭部外傷のために長期の経過観察を要する等、入院期間や通院期間が長引く傾向があります。
バイク事故は後遺障害が残るケースが多い
バイク事故では、生活への支障が大きな怪我が多いため、長期入院を余儀なくされた末に、後遺障害が残るケースが多いのも特徴的です。
バイク事故の様々な後遺症
後遺症の内容も、例えば、次のとおり多岐にわたります。
大腿骨(骨頭・頸部等)骨折後の股関節の機能障害、下肢の痺れ・疼痛
大腿骨骨折後の下肢短縮、膝関節機能障害
腕神経叢損傷後の上腕神経叢麻痺、肩(手・肘)関節の可動域制限
頭部外傷後の高次脳機能障害(記憶障害・失語・遂行機能障害・集中力低下等)
TFCC損傷による手首の関節機能障害、疼痛
脳挫傷後の片麻痺、味覚・嗅覚障害
下腿骨骨折後の足関節の機能障害
膝の靱帯損傷による膝痛
醜状障害(顔面・大腿・下腿等)
バイク事故の賠償問題は早期に始まる
バイク事故では入院治療が必要な事が多いため、その間、仕事を休まなければならず休業損害が発生します。退院が直ぐに出来て、直ちに仕事に復帰できれば良いですが、入院が長引く事が多いため、入院治療中から加害者(加害者の保険会社)に休業損害を支払って貰わなければ、生活が成り立たなくなる場合もあるため、深刻です。
このような理由で、バイク事故では、事故直後から、賠償問題が始まる事が多いです。
バイク事故の過失の割合(過失相殺)
又、バイク事故は走行中に起こる事が殆どのため、バイク側にも運転操作上の落ち度があるとして、加害者との間で、過失の割合が問題となる事が多いです。
その結果、例えば、バイク側にも2割の過失がある場合には、請求できる賠償金は、本来請求できる金額から2割減額されます。これを法律用語で、過失相殺(かしつそうさい)と言います。
バイク事故では刑事事件の記録が重要
このように、バイク事故では過失割合(過失相殺)が問題になる事が多いので、刑事記録の取り寄せが必須です。なぜならば、民事の賠償実務においては、示談・裁判を問わず、実況見分調書等の刑事記録に基づいて、道路状況や事故状況が判断され、過失の割合も判断されるからです。
刑事記録は、刑事手続きの終了後に、保管先の検察庁から取り寄せますが、保存期間の制限があるので、なるべく早い段階で、取寄せるべきです。
バイク事故の具体例(判例紹介)
バイク事故の実際の解決例
(平成25年 5月29日東京地裁判決/出典: 交民46巻3号682頁等)
関係車両
バイク(大型自動二輪車)vs普通普通貨物車
事故の状況
片側2車線道路上の第2通行帯を走行中の加害車両が、第1通行帯に進路変更するに当たり、漫然と時速45kmで進路変更した過失により、第1車線を後方から進行してきた被害者運転のバイク(大型自動二輪車)に、自車の左側面部を衝突させた。
衝突により、バイクは路上に転倒、滑走した。
けが(傷害)
脳挫傷、肺挫傷、胸骨骨折、肋骨骨折等
入院等の期間
①入院22日
②通院2年余り(実日数37日)。その後、自賠責保険で12級が認定され示談成立したが、その後も約6年間通院し、高次脳機能障害が症状固定した(このときの実日数は131日)。
後遺障害
右上肢脱力と知覚障害の後遺障害(12級12号)+高次脳機能障害(具体的症状は不詳)(7級4号)
過失の割合
バイク10%、乗用車90%
判決のポイント
①逸失利益(示談の効力)
裁判所は、示談成立当時、被害者について高次脳機能障害の症状が発症・増悪するか、症状固定の見込時期はいつか、残存する後遺障害がどの程度になるか等を予想することは困難であったとし、そうであれば、本件示談が高次脳機能障害による損害を含めて合意されたものと解することはできず、後遺障害等級表12級の右上肢脱力と知覚障害による損害について合意されたにとどまると解するのが相当であって、高次脳機能障害による損害にまで本件示談の効力は及ばないと述べた。
その上で、神経症状の後遺症(12級)を前提として算定される逸失利益を計算し、その分は示談により精算済みであるとして、高次脳機能障害(7級)を前提に算定される逸失利益から控除して、約3500万円と算定した(但し過失相殺前の金額)。
②後遺症慰謝料(示談の効力)
裁判所は、後遺症慰謝料についても、7級を前提に算定される金額(1000万円)から、12級を前提とする金額(290万円)を控除して、710万円と認定した(但し過失相殺前の金額)。
小林のコメント
本件は、一旦、後遺障害12級を前提とする示談が成立した後に、自賠責保険に対して異議申立てを行い、高次脳機能障害により後遺障害7級が認定され、その後、後遺障害7級を前提とする損害賠償を求めて提訴した結果、7級を前提とする損害と示談額との差額の賠償が認められたという珍しい経過を辿った事案です(尚、訴訟では、新たに両親固有の慰謝料が損害として追加され、認められました)。
12級の後遺障害は、右腕の神経症状に対するもので、法定の労働能力喪失率も14%で、7級の労働能力喪失率が56%であるのと比べ、格段に低いので、自ずと、賠償金も低額となります。因みに、示談金は、「既払い金の他860万円を支払う」というものでした。ところが、7級を前提に下された判決では、さらに3300万円余りの支払が認められました。
このように、当初、低額での示談合意をしてしまった背景には、12級の認定を受ける段階で、被害者には精神症状が出現していて、メンタルクリニックで薬物療法や通院精神療法を受けていたものの、後遺症認定を受けるにあたり、被害者の代理人が、高次脳機能障害に関する資料提出に消極的で、高次脳機能障害としての評価が行われなかったといった事情があった模様です。
ところが、示談成立の数年後に、けいれんが出現するなど、症状の増悪がみられたことから、後遺障害の認定自体を争うことにして、結果、7級という、12級に比べ高位の等級が認定されたのでした。
ここから分かるように、高次脳機能障害の症状は、心療内科が対象とする単なる精神症状とみなされる危険がある上、長期的な経過を踏まえた評価が必要になるので、要注意です。
(平成29年12月27日京都地裁判決/出典:交民 50巻6号1597頁等)
関係車両
バイク(普通自動二輪車)vsトラック(普通貨物自動車)
事故の状況
交差点を直進中のバイクと右折トラックとの衝突。
トラックは、前方にバイクを認めたが、先に交差点を通過できるものと思い発進。ところが、実際にはバイクとの距離が近かったためバイクより先に交差点を通過できず、トラック前部をバイクに衝突させ、バイクが転倒。
けが(傷害)
左大腿骨内果骨折、右足関節外果骨折、右母趾基節骨骨折、両下腿擦過傷、右橈骨遠位端骨折、右環指基節骨骨折、右小指PIP関節脱臼
入院等の期間
①入院約2ヶ月(67日)
②通院約1年(実日数は250日)
後遺障害
左大腿骨内顆骨折後の左膝痛(14級9号該当)、右手関節の機能障害(12級6号該当)、右下肢及び右足趾の機能障害(併合11級相当)により、併合10級相当
過失の割合
バイク15%、トラック85%
判決のポイント
①過失割合
交差点内におけるトラックの通行経路やバイクとの距離を緻密に認定した結果、トラックにはバイクとの距離を見誤って右折を開始した点に過失があるとし、一方、バイクにも軽度の前方不注視があったとして、両者の過失を認定した(トラックの早回り右折や直近右折は否定)。
②逸失利益
被害者は鉄道乗務員。事故後、復職を果たし、事故前の収入と比較して減収しなかったため、後遺症による逸失利益は認められないとの主張が相手からなされた。しかし、裁判所は、電車のハンドルを握りこみにくいなどの制約を受けているとし、それにもかかわらず、減収がみられないのは、従前から電車の運転という技能を有し、かつ、事故後もその技能を活用できているからであって、その努力による面が大きい等と述べ、67歳までの逸失利益を認めた。
③慰謝料(後遺障害分)
後遺障害の内容及び程度、労働能力喪失率等に照らし、後遺障害慰謝料は800万円と認定された。
小林のコメント
後遺障害10級の慰謝料は通常550万円程度ですが、本件では800万円と認定されました。
一方、後遺障害10級の労働能力喪失率は27%なので、通常は、症状固定から就労可能年齢(67)まで事故前の収入の27%が逸失利益と認定されますが、本件では、被害者が定年(60歳)まで鉄道会社に勤務し続ける蓋然性が高いことを理由に、定年までの労働能力喪失率については18%と低めに認定するにとどめました。
慰謝料は、諸般の事情をもとに裁判官が裁量で決められるので、実際の裁判では、調整要素として機能します。このような慰謝料の調整機能を生かし、本件では、逸失利益の認定を控えめにした分、慰謝料を増額したとみることが出来ます。
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