【バイク事故判例㉖】バイクと自動車の衝突事故で、バイク運転者が転倒時に右肩腱板断裂の傷害を負い手術を受け、裁判で後遺障害等級12級を主張したが、14級9号と認定された事例

(平成29年11月30日大阪地裁判決/出典:交民 50巻6号1460頁等)

関係車両

バイク(普通自動二輪車)と四輪車(普通乗用自動車)

 

事故の状況

事故現場は、東西道路と南北道路が交差する信号機のない交差点付近。

 

バイクは東西道路を西方に直進し交差点手前で停止したが、自動車は南北道路を南から東へ右折してバイクと衝突。

 

バイクは運転者ごと約2.6メートル後方に飛ばされて、右側に転倒した。

 

けが(傷害)

右肩打撲、右肘捻挫、右肩腱板断裂

 

治療期間

入院40日、通院実日数167日(症状固定まで1年)

 

後遺障害

自賠責保険の認定は、右肩のしびれ感等の症状につき14級9号(「局部に神経症状を残すもの」)

 

判決のポイント

①後遺障害等級

バイク側の主張は、自賠責保険後遺障害等級12級13号(「局部に頑固な神経症状を残すもの」)。根拠は、右肩腱板断裂後の右肩、右腕等の痛みやしびれ等のため腱板縫合術を受けたが術後も症状は残り、MRI画像上、縫合部の腱の実質部及び肩峰下滑液包に高輝度領域が認められ、症状を裏付ける他覚的所見があるとするもの。

 

これに対して、裁判所は、「MRI画像上、縫合部の腱の連続性は確認できる」との主治医見解や、「術後の画像上、腱板の連続性は得られ、修復されている」ことから症状を裏付ける他覚的所見を否定した自賠責保険の判断を根拠に、バイク側の主張を退け、14級9号に該当すると判断した。

 

②休業損害及び逸失利益

被害者であるバイク運転者は、事故当時、トラック運転手として就職したばかりで、事故後、重いものを持つことができず、正式採用後に復職できないまま退職せざるを得なかったとし、事故後1年間の休業損害として470万円余りを請求した。また、12級相当の後遺障害が残ったことによる逸失利益として831万円(症状固定時50歳~就労可能年である67歳まで14%の労働能力を喪失した事による損害)を請求した。

 

しかし裁判所は、休業損害については、右肩は事故後9ヶ月後には一般男性が行う仕事が可能な状態まで改善したこと等を理由に311万円余りと認定し、逸失利益については、後遺障害等級14級を前提に、症状固定後5年間の金額として101万円余りを認定した。

 

小林のコメント

①過失割合について

交差点での衝突事故においてはバイク側にも事故発生の過失があることを前提に、多くのケースで過失相殺が争点になりますが、本件では、自動車側が早廻り右折をして停止中のバイクに衝突したという事故状況だったため、自動車側の一方的過失による事故であることを前提に、過失割合は争点になりませんでした。

 

②腱板断裂(損傷)について

バイクの転倒事故では肩を地面に強打して脱臼や腱板断裂(腱板損傷)を来すケースがよくみられ、本件でもバイク運転者は右肩に手術を要する程の腱板断裂という怪我を負い、トラック運転手の仕事ができないまま退職を余儀なくされたという気の毒なケースでした。

 

しかし、バイク運転者が主張した12級相当の後遺障害等級は認められませんでした。

 

手術後の画像上、腱板の連続性が得られ修復されているというのが理由ですが、被害者にとっては、痛みの程度を画像所見から一刀両断的に判断されてしまう結果は酷かもしれません。

 

痛みの程度や生活への支障は個人の感じ方や従事する仕事が事務職か肉体労働かによっても異なるからです。

 

腱板断裂(腱板損傷)については後遺症を申請しても認められなかったり、認められても14級に止まることが多いという印象ですが、本件についても同じ印象を持ちました。

 

【2023年7月24日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか

 

(平成29年1月24日横浜地裁判決/出典:自保ジャーナル 1996号47頁等)

関係車両

バイク(大型自動二輪車)vsトラック(普通貨物自動車)

 

事故の状況

事故現場は片側3車線の高速道路上。バイクは第3車線を時速約120kmで走行し、第2車線では加害トラックが時速約100kmで走行していた。トラックが第2車線から、第3車線を走行中のバイクの前方に車線変更をしてきた為、バイクは急ブレーキをかけたが、トラックの右後部にバイクのフロントカウルの左側が衝突し、バイクは右側に横転して滑走した。バイク運転者(被害者)が被っていたフルフェイスのヘルメットは、一部が陥没した。

 

けが(傷害)

右肘・右前腕筋挫傷、頚椎捻挫、外傷性頚部症候群、左黄斑浮腫、左硝子体出血、歯根破損等

 

入院等の期間

①入院 (5日)
②通院約4年3ヶ月(実日数は126日)

 

後遺障害

左眼の視力低下(「1眼の視力が0.02以下」)(8級1号)

 

過失の割合

バイク10%、乗用車90%

 

判決のポイント

①過失割合(過失相殺)

トラックは、進路変更の3秒前までに進路変更の合図を出さず、進路変更先の後続車の安全確認を十分に行わずに第2車線から第3車線に進路を変更し、バイクの進行を妨害したという過失がある。

一方、バイク運転者(被害者)は、前方で進路変更をする先行車を注視し、速度を遵守して走行する義務があったが、進路変更をするトラックを十分に注視せず、法定速度を超過して走行した過失がある。

裁判所は以上のように述べて、これらの過失の内容等を踏まえると、進路変更をして後続車の進行を妨害したトラックの過失の方が大きいとして、双方の過失割合をバイク10%、トラック90%と認定した。

 

②逸失利益

被害者の収入は、配属先が営業統括部からCS推進部に変更となった後も、事故前と比較して、減収しておらず、今後も、大きな減収が生じることは考え難いとしながら、もっとも、左眼に視力障害と視野障害を抱え、両眼を使用するよりも疲れて休憩を取る時間が増えた状況でありながらも、事故後に異動したCS推進部において、パソコンでの入力が中心となる業務で努力を重ね、勤務先付近に引っ越し、自宅での仕事の時間を増やしてまで仕事に時間を費やしたという不断の努力が、大きな減収が生じていない要因の一つになっているとして、これらの事情を考慮して、67歳まで、労働能力25%を喪失したことを前提に逸失利益を認定した。

 

③慰謝料(後遺障害分)

被害者は、営業成績を見込まれてa社に入社し、営業部で勤務していたものの、事故に遭ってCS推進部に異動となり、理事、役員への昇格への可能性が以前よりは少なくなったとし、これらの事情が考慮され、900万円が認められた。

 

(平成29年7月18日横浜地裁判決/出典:交民50巻4号884頁等)

関係車両

バイク(普通自動二輪車) 対 四輪車(普通乗用自動車)

 

事故態様

事故現場は、道路が斜めに交差する見通しが悪い交差点(道路幅は4㍍程でほぼ同幅員、制限速度はともに時速30km、バイクの走行道路には一時停止線があり、乗用車の走行道路にはカーブミラーが設置されていた)。

 

乗用車はカーブミラーにバイクが映っていなかったので減速せずに時速約40kmで交差点に進入し、バイクも交差点の手前で一時停止せず、同程度の速度で交差点に進入し、乗用車の左前方と左側面部分等がバイクの右前部等と衝突し、その際、バイク運転者の頭部が乗用車のフロントガラスに衝突し、乗用車は約12.9m先で停止し、バイク運転者は衝突地点から8.5m先で転倒、バイクもその付近で転倒した。

 

けが(傷害)

外傷性くも膜下出血,急性硬膜外血腫,頭蓋底骨折・脳挫傷,内頸動脈海綿静脈洞瘻,眼窩底骨折,上顎骨骨折,下顎骨骨折,頬骨弓骨折等

 

治療期間

入院252日、通院日数5日(症状固定までの期間は1年2ヶ月余り)

 

後遺障害

「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの」(自賠責保険後遺障害1級1号)

 

過失割合

①物件損害に関してはバイク65%、乗用車35%
②人身損害に関しては、バイク75%、乗用車25%

 

判決のポイント

①物損と人損で異なる過失割合を適用

交通事故事件では通常、いわゆる物損についても人損についても同じ過失割合を用いて賠償金が算定されますが、本件で裁判所は、物損と人損で異なる判断をしました。

 

その理由は、バイク運転者に、事故発生に関する過失以外にも、ヘルメットを適正に装着していなかった過失があり、それにより人身損害が拡大したからです。

 

②損害拡大防止義務

損害賠償実務では一般に、被害者側にも損害の拡大を防止すべき義務があるといわれています。
被害者の損害拡大防止義務は、損害の公平な分担という損害賠償制度の趣旨から認められるもので、被害者が通常期待される注意義務を尽くしていれば損害の拡大を容易に防止できたのにしなかった場合は当該損害は被害者が甘受すべきであるという考えに基づきます。

 

シートベルトの不着用の場合にも妥当しますが、本件では、事故当時、バイク運転者はヘルメットを被っていたものの、顎紐を締めずにバイクに乗っていて、事故の際ヘルメットが頭部から外れ、その状態で乗用車のフロントガラスに頭部を衝突したと認定され、このようなヘルメットを適切に装着しなかった過失が傷害や後遺障害の程度に大きく寄与したことを理由に、人身損害を算定するにあたっては、バイク運転者の過失割合を75%とすべきであると判断されたものです。

 

③事故発生の過失割合(バイク65%、乗用車35%)の判断理由

裁判で、バイク側は自らの過失割合(=事故発生に関する過失の程度)を40%と主張しましたが、裁判所は、一時停止をせずに交差点に進入したバイク運転者の過失の方が乗用車の運転者よりも大きいと述べて、事故発生に関する過失割合をバイク65%、乗用車35%と認定しました。

 

小林のコメント

以前のコラムでも取り上げたように、バイクに乗車中の事故はヘルメット以外に身体を守るものがないため重症化しやすく、警視庁の交通事故統計(2020年中)によると、死亡事故の25パーセントで、事故時にヘルメットが脱落していたそうです。

 

本件の判決を見ると、ヘルメットは,本件事故の衝突地点から6.1m離れた地点で倒れていたバイクのそばに落ちていて、バイク運手者は乗用車のフロントガラスに頭を打ち付け、フロントガラスが蜘蛛の巣状に割れるほどの衝撃を受けて、急性硬膜外血腫や頭蓋底骨折などの傷害を負ったと認定されています。

 

幸い一命は取り留めましたが、まさに、バイクに乗車中の事故は重症化しやすいという統計結果どおりの悲惨な事故でした。

 

実際の裁判では、過失割合以外にも、逸失利益や将来の介護費用、成年後見監督人の費用の額等が争点となりましたが、バイク運転者の請求額が4億7660万円余りと極めて高額であったため、過失割合が中心的な争点となり、結果、上記のとおりバイク側に65%、75%という大幅な過失が認定されました。因みに、判決では1億1600万円余り(物件・人身合計額)が認容されました。

 

【2023年8月16日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか

 

お気軽にお問合せ下さいませ

ImgTop5.jpg
●ホーム ●弁護士紹介 ●事務所紹介 ●アクセス ●弁護士費用
 
トップへ