【バイク事故判例⑫】バイクが狭い道路を走行中、対向四輪車と衝突し、生殖器の障害等(後遺障害10級)が残った30代女性のケース

(平成31年4月22日東京地裁判決/出典:交民 52巻2号455頁等)

関係車両

バイク(普通自動二輪車)vsトラック(中型貨物自動車)

 

事故の状況

事故現場は、幅員が約3㍍と狭く(中央線なし)、湾曲して見通しの悪い道路。妻を同乗させてバイク走行中、対向進行してきたトラックと道路中央付近ですれ違った際、トラックのバックミラーとバイク運転者のヘルメットが接触し、バイクが転倒し、同乗の妻が下記の障害等を負った。

 

けが(傷害)

左仙骨臼蓋骨折、左座骨骨折、右恥骨骨折、第2・第3腰椎横突起骨折等

 

入院等の期間

①入院3ヶ月(87日)
②通院約1年10ヶ月(実日数は12日)

 

後遺障害

生殖器の障害(恥骨部痛等を含む)(11級相当)、左仙骨臼蓋骨折・左坐骨骨折後の左股関節痛(12級13号)、左大腿部の知覚障害、左下肢の知覚障害感覚障害等(12級13号)により、併合10級相当

 

過失の割合

バイク40%、トラック60%

 

判決のポイント

①過失割合(過失相殺)

双方とも、幅員が狭い上、湾曲して見通しの悪い本件道路を走行するに当たり、その道路状況に応じて前方を注視し、適切な速度調整等を行って進行すべき義務を怠った過失があるとして、本件事故がバイクと四輪車との事故であることを考慮し、過失割合を、バイク4割、トラック6割とした。

 

②逸失利益

被害者は、有職の主婦(日本刀のレプリカの製作販売業)。日本刀のレプリカの製作・販売業務によって高額の収入を継続的に得られていたとは認められないから、逸失利益の算定に当たって、その基礎収入は、家事従事者であることを前提に、賃金センサス(平成28年女性労働者・全年齢学歴計平均賃金376万2300円)によるとした。また、各後遺障害のうち生殖器の障害は、その等級どおりの喪失率をもって労働能力に影響が生じているとはいえないとして、労働能力喪失率を20%(併合11級相当)とし、労働能力喪失期間は、67歳までの30年間として、逸失利益を認めた。

 

③慰謝料(後遺障害分)

被害者は、後遺障害により自然分娩が困難となり、出産の際に帝王切開を余儀なくされることに照らすと、将来に対する不安の程度はより大きいものがあると述べ、600万円を認定した。

 

小林のコメント

後遺障害11級の慰謝料は通常420万円程度のところ、本件では、上記の事情を汲んで大幅に増額されました。

 

 

(令和元年9月5日さいたま地裁判決/出典:ウエストロー・ジャパン等)

関係車両

バイク(普通自動二輪車)、四輪車(普通貨物自動車)

 

事故態様

第一車両通行帯は渋滞中で、渋滞により停止した自動車が第二車線に車線変更しようと、右に方向指示器を点灯させて右後方を目視したが、バイクに気づかないまま発進し中央線付近で停止したところ、後方から進行してきたバイクが自動車の右側面に衝突した。

 

けが(傷害)

右足関節脱臼骨折(距骨,内果骨折)、右趾骨骨折等

 

治療期間

入院113日、通院日数56日(症状固定までの期間は1年半)

 

後遺障害

自賠責保険の等級は併合9級(右足関節の可動域制限につき10級11号、右足第1指の指節間関節の可動域制限につき12級12号)

 

過失割合

バイク3割、自動車7割

 

判決のポイント

①過失割合について

裁判所は、まず自動車側の過失について、車線変更するにあたり後方の安全を確認すべき義務があったがバイクの存在を見落とした過失があると述べました。一方、バイク側も、車線変更してくる車両の有無及びその動静に注意すべき義務を怠った他、バイクが第二車両通行帯の中央線付近を走行していたことは車線変更車との衝突する危険性を高める行為であったと述べ、このような事情を踏まえて、双方の過失割合を上記のとおり認定しました。

 

②休業損害(有給休暇を取得できなかった損害)

被害者は事故による欠勤のため、事故発生年及び翌年にそれぞれ20日分の合計40日分の有給休暇を取得できなかったため、欠勤による休業損害の他、有給休暇を取得できなかったことによる損害も主張しましたが、裁判所は、有給休暇には財産的な価値を認めることができるとして、有給休暇1日当たりの金額を算出し、その40日分を損害として認めました。

 

小林のコメント

①過失割合について

本件のような事故状況では、過失割合はバイクが2割、自動車が8割と判断される事が多いですが、裁判所は、バイクの過失を3割と通常よりも重く認定しました。これは、バイクが第一車線寄りの中央線付近を走行していたためと思われます。

 

因みに、バイク側は、自動車が方向指示器を点灯させるのが遅かったと主張しましたが、これに対して自動車側は、右発進する4秒程前に方向指示器を点灯させたと反論し、裁判ではバイク側の主張は認められませんでした。

 

②休業損害について

バイク事故では全身を打撲する等して怪我が多岐にわたることも多いですが、本件では、バイク運転者が負った怪我は足首と足指にほぼ限局していました。もっとも、右足首の関節は左の1/2以下しか動かず、右の足指(親指)も同様で、このため生活上の支障は相当に大きかったと思います。

 

実際に、被害者は事故後369日もの欠勤を余儀なくされました。判決では、欠勤による休業損害に加え、有給休暇を取得できなかった損害や賞与減額分も含め合計約470万円の休業損害が認められました。

 

【2023年8月31日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか

 

(平成21年12月17日千葉地裁判決/出典:自保ジャーナル 1818号77頁等)

関係車両

バイク(原動機付自転車)vsタクシー(事業用普通乗用自動車)

 

事故の状況

T字路交差点手前で、前方を走行するタクシーが停車したので、原付バイクがその左側を通過しようとしたところ、タクシーが乗客を乗せようと、左後部の自動ドアを開けた為、ドアの側面が原付バイクの右側面に当たり、その反動で、バイク運転者(被害者)は左前方へ飛ばされ、地面に倒れ、負傷した。

 

けが(傷害)

頸椎捻挫、全身打撲(左肘・右膝・胸部・臀部)

 

入院等の期間

①入院なし
②通院1年2ヶ月(実日数は不詳)

 

後遺障害

右手の握力低下、頭痛など(14級)

 

過失の割合

バイク10%、トラック90%

 

判決のポイント

①過失割合(過失相殺)

タクシー運転者は、左後部ドアの開扉の操作を行った際、左へ顔を向けて、左後部ドアの真横部分に障害物がないかどうかは確認したが、バックミラーやサイドミラーで後方の車両等の動静について確認することはしなかった。

 

一方、被害者の位置からは、タクシーが歩行者を乗車させようとして左後部ドアを開けることは予測困難であったが、タクシーが乗客を乗せようとしているかどうかを十分に確認することなく、漫然と左脇を通過しようとした被害者にも過失があるとして、被害者に1割の過失相殺を認めた。

 

②逸失利益

右手の握力低下は、利き腕に関するもので、左手の握力の半分程度となっている。被害者は調理師として稼働していたが、事故後は包丁を握るなどの面で実際に支障が生じている。

 

さらに、握力低下の状態は、事故後5年以上が経過した現在も解消せず、今後も相当程度の期間にわたって継続することが見込まれる等の事情を考慮して、労働能力喪失率は8%、労働能力喪失期間は15年間として、逸失利益を算定した。

 

③慰謝料(後遺障害分)

利き腕である右手の握力低下が調理師としての仕事に与える影響と考慮して、130万円を認定した。

 

小林のコメント

後遺障害14級の労働能力喪失率は通常5%とされ、又、後遺障害慰謝料は通常110万円程度ですが、本件では、労働能力喪失率を8%と認めて逸失利益を増額し、慰謝料も130万円に増額しました。

 

 

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