【バイク事故判例⑰】山間道路を2人乗りで走行中、剥離したコンクリート片を跳ね上げ、バイクが損傷。転倒を回避した際に、左手TFCC損傷の傷害を負ったとして、道路を管理する県を被告として訴訟提起したが、県の責任は認められたものの、TFCC損傷との因果関係は否定されたケース

(令和 3年9月1日大阪地裁判決/出典:自保ジャーナル 2110号145頁)

関係車両

バイク(普通自動二輪車250cc)

 

事故の状況

事故現場は、アスファルトコンクリート舗装された山間部の国道。左ヘアピンカーブの登り坂を2人乗りで走行中、道路の中央から右の部分の舗装の一部(縦約0.3㍍、横約0.2㍍、高さ約0.1㍍)が剥離した状態になっていた為、当該コンクリート片の上を通過した際、コンクリート片が跳ね上がり、バイクの底に衝突しバイクが損傷。その際、バイクは転倒しなかったものの、同乗者(女性)は路上に投げ出された。

 

けが(傷害)

バイク運転者の主張は、左手TFCC損傷

 

入院等の期間

通院約2年4ヶ月

 

後遺障害

なし(バイク運転者は、左手TFCC損傷によって、自賠法施行令別表第二14級9号に相当する左手関節痛の後遺障害が残ったと主張したが、裁判では、事故と左手TFCC損傷の因果関係は否定され、後遺障害の残存も否定された。)

 

過失の割合

バイク30%、県70%

 

判決のポイント

①県の過失

バイク運転者の損害賠償請求が認められる為には、県に、国家賠償法2条の責任<注>が認められる必要があるところ、裁判所は、国家賠償法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう等と述べた上で、「跳ね上がるという積極的な作用が発生したことからすれば、通常有すべき安全性を欠くものと認められる」と述べ、コンクリート片の存在を道路の瑕疵と認め、県の責任を認めた。

 

<注>同条1項では、「道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。」と規定されています。

 

②後遺障害

裁判所は、「TFCC損傷の診断において感度85%・特異度100%(尺側損傷はそれぞれ71%・88%)である関節造影検査でも、複数の医療機関で異常所見が認められなかったこと、鎮痛剤等の処方もなかったことからすれば、原告が主張する後遺障害は、将来においても回復が困難と見込まれるものとは認められない(いわゆる日にち薬として経過観察により自然治癒に任せるべき症状と認められる。)。」と述べて、後遺障害の主張を退けた。

 

③過失相殺

裁判所は、次の理由により、バイク運転者に30%の過失を認め、賠償金を減額しました。

「本件コンクリート片はアスファルトコンクリート舗装の状況が不良であったために発生したものと認められ、舗装の状況が特に不良であったのは、原告単車の走行方向からして道路の右側部分であったから、不安定な単車で2人乗りでもあったのに原告単車が敢えて右側部分を通行しなかったことが、本件事故の発生に影響したものと認められる。」
「昼間で晴れていたことも考慮すれば、原告の過失を30%考慮するのが相当である。」

 

小林のコメント

本件で、バイク運転者は、転倒を避けようとして左手TFCC損傷の傷害を負ったと主張しましたが、裁判では、本件事故とTFCC損傷との因果関係は否定され、後遺障害も否定されました。

 

TFCC損傷については、医療機関で診断名がついても、労災や自賠責保険における後遺障害認定の場面などでは、TFCC損傷の医学的他覚的所見がないとして、TFCC損傷自体が否定される事があり、本件の裁判でも否定されました。

 

バイク運転者は、裁判で約400万円の損害賠償を請求しましたが、事故後の左手痛は、「いわゆる日にち薬として経過観察により自然治癒に任せるべき症状と認められる。」と評価され、過失相殺後の認容額は、物的損害を含め約25万円という厳しい結果となりました。

 

(令和4年10月11日名古屋地裁判決/出典:自保ジャーナル№2140、122頁)

けが(傷害)

右足関節脱臼骨折、右脛骨内側骨挫傷

 

事故後の経過

17日間の入院を含め約1年半通院治療を続けたが、右足関節の可動域制限が残ったため自賠責保険に後遺障害等級認定を申請し、12級7号(1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの)が認定され、自賠責保険金224万円が支払われた。

 

その後、既払い金224万円を控除後の1990万円余りの支払を求めて損害賠償請求訴訟を提起した。

 

判決のポイント

①事故状況

バイクは、片側3車線の第1車線を直進中、乗用車の左側面と接触・転倒したが、事故状況の詳細については、次のように双方の主張が大きく異なっていた。

 

乗用車運転者の主張:第1車線を走行中、路上駐車車両がいたため一時的に第2車線にはみ出したが直ぐに第1車線に戻ろうと左ウインカーを出したときにバイクが第1車線を高速度で走行してきて路上駐車車両との間を高速ですり抜けるようにして追い越そうとした際に接触した。

 

バイク運転者の主張::第1車線を時速40㎞~50㎞で走行中、右前方の第2車線を時速50㎞程で走行中の乗用車が合図をせずに第1車線側に進路変更してきて接触した。

 

これに対して裁判所は、バイク運転者の主張をほぼ採用し、本件事故は、バイクの右前方(第2車線)を概ね時速約50㎞の同速度で走行していた乗用車が少なくとも敵式な合図をせずに第1車線側に進路変更を開始したためバイクの右側面と乗用車の左側面が衝突した、と認定しました。

 

②過失割合

裁判所は、認定した事故状況を前提に、乗用車について、その過失は9割を下らないと判断しました。

 

理由は、乗用車運転者が後方バイクの動静を十分確認しなかったこと、適式な合図をしなかったこと、一定量のアルコールが検出されたことです。一方、バイク運転者にも乗用車の動静注視を怠った過失があるとして、1割の過失が認定されました。

 

③被害者の収入

バイク運転者は50歳の個人事業主でしたが、確定申告資料は紛失したとして提出しなかったため、裁判では、被害者の事故前収入も争点となり、結局、市民税・県民税照会回答書という公的書類に記載された収入に基づき休業損害や後遺障害逸失利益が認定されました。

 

被害者は、実際の営業等収入はもっと多かった等と主張しましたが、採用されませんでした。

 

小林のコメント

①ドライブレコーダに事故時の映像が残っていないケースでは、事故状況に関する当事者の言い分が食い、事故状況が争点になることがありますが、本件のように大きく食い違うケースは希です。

 

事故状況がどうだったかは、過失割合の判断に大きく影響します。

 

そのため、裁判では、自分の主張を裏付けるべく、双方から交通事故専門家の意見書や鑑定書、保険会社担当者の意見書など、沢山の証拠が提出されました。

 

そして、裁判所は、これらの証拠の他、裁判における両当事者の尋問結果や乗用車運転者に関する刑事記録(捜査段階における供述、実況見分の結果等)、さらには車両の損傷状況及びその分析結果等あらゆる事実を子細に検討し、どちらの主張が証拠に照らし信用できるかという視点から、事故状況を認定しました。

 

②被害者が主張したとおりの事故前収入が認められなかった結果、裁判では、休業損害や逸失利益の額が被害者主張のとおりには認定されず、1990万円余りの請求に対して裁判で認容された損害賠償金は約900万円でした。

 

【2024年1月15日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか

 

(令和 2年 2月21日東京地裁判決/出典:自保ジャーナル2073号34頁等)

関係車両

バイク(普通自動二輪車)vs普通乗用車

 

事故の状況

バイクが片側3車線の第2車線を直進していたところ、転回禁止場所において、加害車が左側の第1車線から転回を開始し、バイクに衝突した。

 

けが(傷害)

右尺骨茎状突起骨折、左眼窩底骨折、左眼窩吹き抜け骨折、顔面挫滅創、頭部外傷

 

入院等の期間

①入院14日
②通院約8ヶ月(実日数は98日)

後遺障害

右眉毛上縁~鼻根正中の長さ5センチメートル以上の線状痕はじめ複数の線状痕・顔面正中部の瘢痕(9級16号)、眉毛上―頭頂部しびれ(14級9号)により、併合9級

 

過失の割合

バイク0%、乗用車100%

 

判決のポイント

①過失割合(過失相殺)

加害車の転回禁止義務違反等の過失は重いとする一方、被害者の制限速度超過やハンドルやブレーキ操作等の過失を認めるに足りる証拠はないとして、被害者の過失を否定した。

 

②逸失利益

顔面の醜状が、直ちに労働能力喪失に具体的に影響を生じさせるものとみることはできないとして、醜状障害を理由とする逸失利益は否定。眉毛上―頭頂部のしびれや痛みの神経症状についてのみ、労働能力喪失率5%、労働能力喪失期間10年、高校卒業後の実収入を基礎としつつ賃金センサス高校卒男の年齢別平均賃金も参考にして逸失利益を認定した。

③慰謝料(後遺障害分)

被害者が若年であることや、醜状が顔面という目立つ位置にある事等から、醜状障害が原因対人関係や転職において消極的になったりするなど心理的影響が今後も生じることが想定されることは否めないとし、後遺障害慰謝料を790万円と認定した。

 

小林のコメント

顔面という目立つ場所の傷痕は男女を問わず心理的影響が多大です。就職や仕事上の影響も否めません。

 

そのため、被害者側では、醜状も将来の収入に与える影響があるとして逸失利益の主張をしましたが、上記の理由で、醜状障害を理由とする逸失利益は否定されました。

 

しかし、その一方で、後遺障害9級としては比較的高額な慰謝料が認定されました。因みに、後遺障害9級の慰謝料は通常690万円程度です。

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