【バイク事故判例㉑】直進中のバイク同士の出会い頭衝突事故により高次脳機能障害の後遺症が残った被害者(40代男性)に関し、被害者過失を2割と判断し、被害者の子らの慰謝料請求を否定した事例。
(令和3年1月20日大阪地裁判決/出典:交民54巻1号106頁等)
関係車両
バイク(原動機付き自転車) 対 バイク(普通自動二輪車)
事故態様
事故現場は、南北道路と東西道路が交差する信号機のない交差点。被害者は原動機付き自転車の運転者。南北道路には一方通行規制がされていて、一時停止の標識があり、路上には停止線が引かれ、「止まれ」の標示があった。制限速度は時速20km。一方、東西道路は見通しが悪く、「速度落とせ」の標示があり、制限速度は時速30km。
加害バイク(普通自動二輪車)は、南北道路を北側から一時停止することなく、制限速度を超える時速約30㎞で交差点に進入し、被害バイク(原動機付き自転車)は、東西道路を東側から徐行することなく、時速約30kmで交差点に進入し、衝突した。
けが(傷害)
外傷性くも膜下出血,脳挫傷など
治療期間
2年3ヶ月(症状固定までの入通院期間)
後遺障害
高次脳機能障害、嗅覚障害(味覚障害は裁判で否定された)
過失割合
被害バイク(原動機付き自転車)20%、加害バイク(普通自動二輪車)80%
判決のポイント
①過失割合
裁判所は、加害バイク(普通自動二輪車)につき、交差点手前で一時停止せず、制限速度を超える時速約30㎞で交差点に進入したことを理由に、加害バイクの過失は大きいとする一方、被害バイク(原動機付き自転車)にも、見通しの悪い交差点を徐行せずに進入した過失があるとし、過失割合をそれぞれ80%、20%とするのが相当であると判示した。
②後遺障害等級・程度
高次脳機能障害に関する自賠責保険の後遺障害認定は3級3号(「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの」に該当する)だったが、加害バイク側が、より低位の7級4号(「神経系統の機能又は精神に障害を残し,軽易な労務にしか服することができないもの」)と主張したため、裁判では、高次脳機能障害の後遺障害等級及び程度が主たる争点となった。
3級の労働能力喪失率は100%、7級の労働能力喪失率は56%。
裁判所は、単純な繰り返し作業などに限定すれば就労することは可能としつつ、就労の維持には職場の理解と援助が欠かせない上、感情のコントロールの不良や易怒性等から、職場における理解と援助を十分に得られない可能性が高いとの理由により、7級4号に該当するにすぎないとの被告主張は採用せず、「高次脳機能障害による後遺障害が残存したことにより労働能力を85%喪失した」と判示した(等級は明示せず)。
尚、嗅覚障害については後遺障害14級に該当するとしたが、これによる労働能力の喪失は否定した。
③子供らの固有の慰謝料
被害者には子供と内縁の妻というべき女性がいて、被害者に高次脳機能障害などの重い後遺障害が残存したことで強い精神的苦痛を被ったとして、それぞれ500万円の慰謝料請求をしたが、裁判所は、「生命が害された場合にも比肩すべき程度の精神上の苦痛又はこの場合に比して著しく劣らない程度の精神上の苦痛を受けたとまでは認めることはできない」との理由により、法的には慰謝料請求権が発生することはないといわざるを得ないと、その請求を棄却した。
小林のコメント
被害者が提訴にあたり請求した金額は2億円余りでした。また、本件では、子や内縁の妻というべき女性も原告となって、それぞれ500万円の慰謝料を請求しました。
被害者が働き盛りだったこともあり、本人だけでなく近親者にとっても、事故の影響が経済面・精神面にわたり如何に大きかったかが想像できます。
実際に判決で認められた賠償金は2700万円程でしたが、この中には、600万円近い将来介護費も含まれています。高次脳機能障害により将来にわたり看視的介護を要すると認められた結果です。
本件はバイク同士の事故なので、加害バイクの運転者も何らかのけがを負ったと想像しますが、判決書きからは不明です。被害者は車体の弱い原動機付き自転車に乗車中だった為、被害が一方的に拡大したものと思われます。
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