【バイク事故判例㊳】バイクで交差点を直進中、スマホアプリのカーナビ音声の指示で急遽右折を開始した右折自動車に衝突され左小指の疼痛等の後遺障害が残ったケースで、バイク運転者の過失が否定され、バイク修理代等を含め総額830万円余りが認定された事例
(令和5年5月30日神戸地裁判決/出典:自保ジャーナル№2160、118頁)
けが(傷害)
左小指PIP関節開放性脱臼骨折、頭部打撲、胸部打撲、両側膝関節打撲等
治療期間
入院8日、通院期間11ヶ月
後遺障害等級
左小指PIP関節開放性脱臼骨折後の疼痛等に対し、自賠責保険後遺障害等級14級9号(「局部に神経症状を残すもの」に該当)
判決のポイント
①過失相殺の可否
本件では、被害バイクの運転者にも事故発生の過失があるか(過失相殺の可否)が争点となりました。裁判所は、この点を判断するために、まず事故の発生状況を次のとおり認定しました。
「衝突前、自動車は赤信号待ちのため停車したが、道路にはその付近から右折用の第2車線が新たに設けられ、片側2車線の状態となっていた。交差点を直進通過するつもりだった自動車は、青信号で発進した際、第2車線へ進路変更することなくそのまま第1車線を直進して交差点を通過しようとしたが、その直前、カーナビゲーションが右折すべきとの音声案内をしたため翻意して、速度を余り減速させないで急遽第1車線から右ハンドルを切って右折を開始した。」
裁判所は、この事故状況を踏まえ、バイク側からは、「対向第1車線から対向第2車線を乗り越えて右折するような車両が存在することを予見することは極めて困難だった」として、その過失を否定しました。
②被害者の労働能力喪失率、労働能力喪失期間
被害者の後遺障害の原因となったのは左小指PIP関節の骨折で、PIP関節(ピーアイピー関節)とは指の第2関節のことです。
この部位に疼痛等の症状が残っても、労働能力への影響は小さいため、後遺障害逸失利益の算定にあたっては、労働能力喪失率は後遺障害等級14級の法定労働能力喪失率である5%よりも低いとの主張が被告(自動車運転者)からありましたが、裁判所は次のように述べて、労働能力喪失率を5%と認定しました。
「原告(被害バイクの運転者)はバイクを製造販売するメーカーの生産部に勤めておりバイクの組み立て等において工具の扱いや事務作業でキーボードを扱うことがある。小指が人差し指等よりも使用頻度が比較的低いことを考慮しても、各作業を行う際に何らかの代替的手段を講じる必要性に迫られるなど具体的な支障が生じているものと推認できる。」
又、左小指の疼痛等は局部の神経症状にすぎないため、労働能力喪失期間は5年程度に限定されるべきであるとの主張もありましたが、裁判所は、「原告のPIP関節面には不整の残存がうかがわれ、関節面の不整は今後も残存する可能性が高い」との理由から、「労働能力喪失期間は、症状固定日(40歳)から一般的な就労可能期間とされる67歳までの27年間と認めるのが相当である」と述べました。
小林のコメント
本件は、自動車の急な右折によりバイク前部が自動車の左後部扉に衝突し、バイクの前部カウル、左レバーおよびグリップが損傷し、約100万円の修理代が発生しました。
怪我は幸い、左小指を骨折した以外は打撲程度ですみましたが、それでも症状固定まで1年近くを要し、左小指に疼痛等(動作時痛・つっぱり感)の後遺障害が残りました。
裁判では、修理代やレッカー代・携行品損害といった物損に、休業損害、後遺障害逸失利益、慰謝料等の人身損害を加算した結果、既払い金控除後の損害賠償金として830円余りの支払が命じられました。
【2024年9月24日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか