【バイク事故判例㊷】渋滞車列の左側を走行していた原付バイクと、渋滞車列の隙間を通って交差点を横断しようとした普通乗用車が出会い頭に衝突した事故の事例

判決の概要

渋滞車列の左側を走行していた原付バイクと、渋滞車列の隙間を通って交差点を横断しようとした普通乗用車が出会い頭に衝突した事故です。

 

裁判所は、被害者の過失割合を30%と認定するとともに、高次脳機能障害が残りその後死亡した被害者について、12年間分の後遺障害逸失利益を認めました。

 

  • 裁判所:令和6年1月19日名古屋地裁判決
  • 出典:自保ジャーナル2170号1頁等
  • 関係車両:原動機付自転車(原付バイク)vs普通乗用自動車
  • 今回ご紹介する判決のポイント:① 過失割合、② 後遺障害逸失利益

 

事故の概要

●事故状況

信号機による交通整理の行われていない十字交差点において、優先道路を東進していた原付バイク(被害者運転)と、劣後道路を北進していた普通乗用車が衝突した。優先道路は渋滞しており、被害者は渋滞車列の左側(外側線の北方)を時速30kmで走行していたところ、加害車両は、渋滞車両が交差点を空けて停止していた隙間を通って交差点に進入し、両車が出会い頭に衝突した。

 

 

 

●けが(傷害):
外傷性くも膜下出血、脳挫傷等(重篤な頭部外傷)

 

●治療期間:
約14か月(事故日:平成29年8月31日 症状固定日:平成30年10月31日)

 

●自賠責保険の後遺障害認定:
脳外傷による高次脳機能障害について、神経系統の機能又は精神の障害として、現存障害は別表第二第3級3号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの)に該当すると認定された。

 

なお、被害者には事故前から「うつ病」の既往症があったことから、これを既存障害として別表第二第14級9号相当と評価した上で、現存障害3級3号・既存障害14級9号の加重障害として取り扱われた。

 

●請求額と認容額:
相続人2名が合計8569万1492円を請求し、裁判所は合計4941万0076円を認めた。

 

判決のポイント

①過失割合

優先道路を走行していた原付バイクでも、過失割合はゼロになるとは限りません。

本件では、渋滞中の交差点で普通乗用車と衝突した原付バイクについて、裁判所は、被害者にも30%の過失を認めました。

 

加害者側は、被害者にも少なくとも30%の過失があると主張しました。一方、被害者側は、「加害車両が停止車両の陰から飛び出したため回避できなかった」として、過失はないと主張しました。

 

裁判所は、加害者には、停止車両の陰から二輪車が走行してくる可能性があったことを理由に、左方の安全確認義務違反を認めつつも、被害者についても、交差点では交差道路から車両が進入する可能性を予測して速度を落とすなど慎重に進行すべき義務があったとして、被害者の過失を30%と認定しました。

 

②後遺障害逸失利益

本件では、被害者に重い高次脳機能障害が残り、その後に死亡したにもかかわらず、12年間分の後遺障害逸失利益が認められた点も注目されます。

 

被害者が本件事故により3級3号の後遺障害を負った後、症状固定から約2年3か月後に死亡しているにもかかわらず、裁判所は、平均余命の約2分の1にあたる12年間にわたる労働能力喪失を前提に、後遺障害逸失利益3238万円余りを認定しました。

 

被害者死亡後も逸失利益が認められた理由

後遺障害による逸失利益は、症状固定時点における労働能力の喪失という将来の損害を、その時点で評価するものです。

 

そのため最高裁判例も、その後に被害者が(事故と因果関係のない原因で)死亡したとしても、事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、原則として、その死亡の事実によって逸失利益の算定が左右されるものではないとしています(最高裁平成8年4月25日第一小法廷判決)。

 

本判決も、この考え方を当然の前提として、死亡の事実を労働能力喪失期間の算定に反映させず、通常の算定方法(平均余命の2分の1)<注>をそのまま用いたものといえます。

<注>被害者は症状固定時60歳。症状固定時から67歳までの年数が簡易生命表の平均余命の2分の1より短くなる者の労働能力喪失期間は、原則として平均余命の2分の1とされます。

 

弁護士からのコメント

①過失割合について

本件の過失割合の認定は、優先道路における渋滞時の二輪車の通行方法という、実務上しばしば問題となる事故類型を扱ったものです。渋滞車列の隙間を通行する四輪車と、その左側(外側)をすり抜けようとする二輪車との事故は、双方に相応の落ち度が認められやすい類型であり、本件もその例に漏れず、双方に安全確認などの不注意があった結果、被害者の過失は30%と判断されました。

 

バイクや自転車で渋滞中の車列の脇をすり抜ける走行方法は、一見スムーズに見えても、死角からの飛び出しに巻き込まれるリスクが高い走行方法であることを、本件は改めて示しているといえます。

②後遺障害逸失利益について

本件の結論は、一見すると、「その後亡くなっているのに、なぜ12年分もの逸失利益が認められるのか」と疑問に思われるかもしれません。しかし、後遺障害逸失利益は症状固定時点で将来の損害を評価するものであるため、その後死亡したとしても、原則として賠償額は変わりません。

 

この考え方は最高裁判例によって確立されています。本判決の結論の背後には、このような基本的な考え方があります。

 

【2026年7月4日更新】
執筆者:シエル法律事務所 弁護士小林ゆか

 

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