【バイク事故判例㉓】赤信号で停止中の追突事故により、後遺障害等級併合14級の認定を受けた被害バイクの運転者(60代男性)が、既払い金控除後の損害賠償金として2,000万円の支払を求めて提訴した事案に関し、270万円余りの支払を命じる判決が下された事例【2023年2月21日更新】
(令和3年5月19日東京地裁判決/出典:自保ジャーナル2102号58頁)
関係車両
バイク(普通自動二輪車) 対 四輪車(普通乗用自動車)
事故態様
赤信号で停止中のバイクに自動車が追突し、バイク運転者は衝突地点から約10メートル飛ばされて路上に倒れ、バイクは約13メートル前方まで滑走し停止した。追突車の運転者は飲酒運転で、事故後、救護義務・報告義務を果たさずに事故現場から離れた。
けが(傷害)
骨盤骨折、頸椎捻挫、左足関節の擦過傷
治療期間
約2年7ヶ月(後遺障害診断書記載の症状固定日までの入通院期間)
後遺障害
自賠責保険の認定は、次の①~③により併合14級
①頸椎捻挫後の右上肢しびれ及び左上肢尺側中心しびれの症状につき14級9号
②骨盤骨折後の歩行時左股関節痛、左大転子部痛、運動痛等の症状につき14級9号
③左足関節内果周囲の色素沈着につき14級5号
判決のポイント
①事故と頚椎椎間板ヘルニアとの因果関係
原告(バイク運転者)は、事故により後ろ向きに飛ばされ、足を真上にした状態で頭から地面に落下し、この際ヘルメットで項を強打し、第7頚椎と第8頚椎(第1胸椎)間の椎間板ヘルニアが生じたと主張したが、裁判所は、事故時の写真や救急搬送先の病院における負傷内容等から、本件事故の態様が原告主張のものであると認めるに足る証拠はないとした。
また、椎間板ヘルニアは外部からの衝撃以外にも加齢に伴って生じることがあるとし、事故後の治療経過や原告の年齢も考慮すると、原告主張の頚椎椎間板ヘルニアは本件事故により生じたものとは認められないとした。
②事故と心的外傷後ストレス障害(PTSD)との因果関係
原告(バイク運転者)は、本件事故により心的外傷後ストレス障害(PTSD)にり患したと主張したが、裁判所は、フラッシュバックや自動車走行音への恐怖や回避及び不眠が認められると診断されたのは事故から3年6ヶ月以上を経過した後である事等を理由として、本件事故により原告が心的外傷後ストレス障害(PTSD)にり患したとは認められないとした。
③後遺障害の程度
原告(バイク運転者)は、頸部痛と左上肢尺側しびれ感は、第7頚椎と第8頚椎(第1胸椎)間の椎間板ヘルニアに起因するもので、このことは他覚的所見に基づき医学的に証明されているとして、頸部痛と左上肢尺側しびれの症状は、後遺障害等級12級13号の後遺障害に該当すると主張したが、裁判所は上記①のとおり頚椎椎間板ヘルニアは本件事故によるものではないとし、又、しびれの症状は画像所見や神経学的異常所見により裏付けられているともいえない、さらには、頸部痛は、本件事故から10年前の交通事故の際に後遺障害として認定されたものに含まれるとして、後遺障害等級を12級13号とする原告主張を退けた。
④休業損害
原告(バイク運転者)は、事故後1年~症状固定日までの休業損害として約750万円を請求したが、裁判所は、この時期は、頚椎捻挫のみが症状固定に至っていない状態だったとした上で、この時点では治療は1ヶ月に4ないし5回程度で3ヶ月後には14級9号の後遺障害が残存し症状固定に至っていることを理由に、この時期の労働制限を平均して25%と認定し、原告の基礎収入をもとに、休業損害を約27万円と認定した。
小林のコメント
被害バイクの運転者は、賠償金の増額を求めて提訴しましたが、結果は、2,000万円の請求に対し270万円余りの認定に止まりました。
後遺障害は、自賠責保険の認定どおり14級と判断されたため(労働能力喪失率は5%)、後遺障害逸失利益も後遺障害慰謝料の金額も伸びず、休業損害も、休業時期における原告の症状を子細に検討した上で、僅かな増額に止まりました。
症状固定の時期も争点となりましたが、判決では、後遺障害診断書記載の症状固定日より1年半も前に全ての症状が固定していたと認定され、その結果、入通院(傷害)慰謝料も原告主張が233万円だったのに対し190万円の認定に止まりました。
もっとも190万円は、被告(乗用車の運転者)が飲酒運転で、事故現場から立ち去ったという悪質性を考慮して通常よりも増額されました。
訴訟提起のために要した費用や労力を考えると、判決結果は原告にとって厳しいものとなりました。
【2023年2月21日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか
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