【バイク事故判例⑯】第2車線から進路変更してきた加害車両との衝突事故。 事故後、後遺障害12級を前提とする示談が成立したが、示談成立の6年後に、自賠責保険への異議申立ての結果、高次脳機能障害により後遺障害等級7級と認定され、追加支払を受けた20代男性会社員のケース
(平成25年 5月29日東京地裁判決/出典: 交民46巻3号682頁等)
関係車両
バイク(大型自動二輪車)vs普通普通貨物車
事故の状況
片側2車線道路上の第2通行帯を走行中の加害車両が、第1通行帯に進路変更するに当たり、漫然と時速45kmで進路変更した過失により、第1車線を後方から進行してきた被害者運転のバイク(大型自動二輪車)に、自車の左側面部を衝突させた。
衝突により、バイクは路上に転倒、滑走した。
けが(傷害)
脳挫傷、肺挫傷、胸骨骨折、肋骨骨折等
入院等の期間
①入院22日
②通院2年余り(実日数37日)。その後、自賠責保険で12級が認定され示談成立したが、その後も約6年間通院し、高次脳機能障害が症状固定した(このときの実日数は131日)。
後遺障害
右上肢脱力と知覚障害の後遺障害(12級12号)+高次脳機能障害(具体的症状は不詳)(7級4号)
過失の割合
バイク10%、乗用車90%
判決のポイント
①逸失利益(示談の効力)
裁判所は、示談成立当時、被害者について高次脳機能障害の症状が発症・増悪するか、症状固定の見込時期はいつか、残存する後遺障害がどの程度になるか等を予想することは困難であったとし、そうであれば、本件示談が高次脳機能障害による損害を含めて合意されたものと解することはできず、後遺障害等級表12級の右上肢脱力と知覚障害による損害について合意されたにとどまると解するのが相当であって、高次脳機能障害による損害にまで本件示談の効力は及ばないと述べた。
その上で、神経症状の後遺症(12級)を前提として算定される逸失利益を計算し、その分は示談により精算済みであるとして、高次脳機能障害(7級)を前提に算定される逸失利益から控除して、約3500万円と算定した(但し過失相殺前の金額)。
②後遺症慰謝料(示談の効力)
裁判所は、後遺症慰謝料についても、7級を前提に算定される金額(1000万円)から、12級を前提とする金額(290万円)を控除して、710万円と認定した(但し過失相殺前の金額)。
小林のコメント
本件は、一旦、後遺障害12級を前提とする示談が成立した後に、自賠責保険に対して異議申立てを行い、高次脳機能障害により後遺障害7級が認定され、その後、後遺障害7級を前提とする損害賠償を求めて提訴した結果、7級を前提とする損害と示談額との差額の賠償が認められたという珍しい経過を辿った事案です(尚、訴訟では、新たに両親固有の慰謝料が損害として追加され、認められました)。
12級の後遺障害は、右腕の神経症状に対するもので、法定の労働能力喪失率も14%で、7級の労働能力喪失率が56%であるのと比べ、格段に低いので、自ずと、賠償金も低額となります。因みに、示談金は、「既払い金の他860万円を支払う」というものでした。ところが、7級を前提に下された判決では、さらに3300万円余りの支払が認められました。
このように、当初、低額での示談合意をしてしまった背景には、12級の認定を受ける段階で、被害者には精神症状が出現していて、メンタルクリニックで薬物療法や通院精神療法を受けていたものの、後遺症認定を受けるにあたり、被害者の代理人が、高次脳機能障害に関する資料提出に消極的で、高次脳機能障害としての評価が行われなかったといった事情があった模様です。
ところが、示談成立の数年後に、けいれんが出現するなど、症状の増悪がみられたことから、後遺障害の認定自体を争うことにして、結果、7級という、12級に比べ高位の等級が認定されたのでした。
ここから分かるように、高次脳機能障害の症状は、心療内科が対象とする単なる精神症状とみなされる危険がある上、長期的な経過を踏まえた評価が必要になるので、要注意です。
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