【バイク事故判例㉟】信号機のある十字路交差点に双方青信号で進入した、直進バイク(自動二輪車)と右折四輪車の出会い頭衝突事故につき、過失割合をバイク5%、四輪車95%と認定し、事故により右大腿骨骨幹部骨折等の傷害を負ったバイク運転者が約1年10ヶ月後に走ってダッシュをして右脛骨を骨折したことによる拡大損害につき50%の過失相殺を認めた事例

(令和4年4月27日名古屋地裁判決/出典:交民55巻2号535頁等)

けが(傷害)

右大腿骨骨幹部骨折、右脛骨骨幹部骨折、右腓骨開放骨折、右膝蓋骨開放骨折等

 

事故後の経過

被害者は事故後、救急搬送先の病院で手術を受け、術後リハビリのために他院へ転院し、合計約4ヶ月半入院後に退院したが、退院後、右脛骨骨幹部の偽関節手術のために再入院をし、以後、通院の上リハビリ治療を受けていた。

 

ところが、事故から約1年10ヶ月後に、走ってダッシュをしたとき右膝がグキっといって転倒し右脛骨を骨折した(右脛骨内側高原骨折)。そのため再度入院の上、手術を受け、事故から約2年10ヶ月後に症状固定と診断され、自賠責保険に後遺障害を申請した(症状固定時の年齢は33歳)。

 

後遺障害

自賠責保険の後遺障害等級は併合11級(右腓骨近位端骨折に伴う右腓骨骨幹部の偽関節につき「長管骨に変形を残すもの」として12級8号、右膝蓋骨骨折および右腓骨内側高原骨折後の右膝痛の症状につき「局部に頑固な神経症状を残すもの」として12級13号、右大腿骨骨幹部骨折後の右大腿外側痛の症状につき「局部に神経症状を残すもの」として14級9号)。

 

裁判所の判断も併合11級。

 

判決のポイント

①過失割合

裁判所はまず、信号機により交通整理の行われている交差点において、直進車・右折車共に青信号で進入した場合の、単車直進・四輪車右折事案では、直進バイクにも交差点等における安全運転義務(道路交通法36条4項、70条)に違反した過失が認められるとして、その場合の基本的な過失割合はバイク15%、四輪車85%であると述べました。

 

しかし、本件では四輪車に直近右折があったとして、バイク側の過失割合を10%減じ、結果、バイク5%、四輪車95%と認定しました。

 

②転倒による右脛骨内側高原骨折と事故との因果関係

転倒後の骨折は事故から約1年10ヶ月後に発生したため、加害者は、転倒は専ら被害者の不注意によるもので本件事故に起因するものではないとして、因果関係を争いました。

 

しかし、裁判所は、本件事故によって被害者は右膝付近の複数か所を骨折し、右脛骨骨幹部の偽関節手術を受け、転倒時は脛骨の偽関節は骨癒合はまだで、右脛骨の膝に近い部分は脆弱な状態になっていたとして、転倒による右脛骨内側高原骨折と本件事故との間には相当因果関係があると判示しました。

 

もっとも、主治医から「無理はしないように」等の行動制限指示があったことから、右膝付近に負荷がかからないように配慮をすべきであったとして、被害者にも落ち度があったと述べ、同骨折により拡大した損害(具体的には同日以降の治療に係る損害)の5割を過失相殺するのが相当であると判示しました。

 

小林のコメント

本件の被害者は、片足の大腿骨のみならず腓骨・頸骨といった膝より下の2つの骨も骨折したため、入院中はもとより退院後も歩行には多大な支障が長く続いたと思われます。足の骨折は本件のように多発骨折を来さない場合でも日常生活上の制約が多く、事故後に転倒し、そのため治療が長引く事も珍しくありません。

 

本件では、転倒時の治療状況等を仔細に検討し、転倒は事故によるものであると認める一方で、被害者の落ち度も考慮して、過失相殺の適用により、転倒による拡大損害については被害者もその5割の責任を負うものとされました。

 

因みに、裁判所の認容額は、物損も含め1560万円余りでした。

 

【2024年2月26日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか

 

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