【高齢者の交通事故判例⑨】73歳女性が自転車走行中の事故により腰部痛等の後遺障害14級の症状を残した事案で、一審裁判所の認定(被害者過失3割、症状固定は事故後6.5ヶ月後、休業損害・逸失利益は年齢別女性労働者平均の7割を基礎に算定)を不服として控訴したが、控訴審でも一審の判断が維持された事例

(令和4年9月8日大阪高裁判決。一審は令和4年1月11日大阪地裁判決/出典:自保ジャーナル2140号93頁)

 

事故状況

現場は、横断歩道及び自転車横断帯のある交差点付近。加害車は右折乗用車。乗用車は、右折の方向指示器を出して交差点内で停止し、対向車の通過待ちをし、横断歩道等の横断を自転車や歩行者が終えるのを待って右折を開始したが、横断歩道等を約2メートル超えた地点で、自転車と衝突した。

 

けが(傷害)

頚部挫傷、腰部挫傷、肘部挫傷等

 

治療期間

裁判所の認定は6.5ヶ月

 

後遺障害

自賠責後遺障害等級14級9号(受傷後の腰部~殿部~左股関節痛、右肘痛、両手のしびれ、筋力低下に対し「局部に神経症状を残すもの」と認定)。
裁判所の認定も後遺障害14級(但し、両手のしびれは後遺障害性を否定)

 

過失割合

被害者(自転車)3割、乗用車7割

判決のポイント

①被害者過失

自転車の走行道路には一時停止線と直進禁止規制があったが、一審裁判所は、自転車は一時停止せず且つ右側に寄って横断歩道等に沿って走行することもなく直進進入したと認定し、自転車運転者が73歳の高齢者である事を考慮しても、その過失は3割であるとした。

 

被害者は、控訴審において、道路規制に従って走行していたと主張し、過失はゼロか10%に過ぎないと一審の判断を争ったが、控訴審裁判所は、衝突地点等から走行経路に関する被害者主張を排斥し、一審の判断を維持した。

 

②治療期間(症状固定日)

一審裁判所は、事故後6.5ヶ月後に症状固定したとして、その間の治療費を損害認定した。被害者は控訴審において、その後も痛み等が続いたとして事故後8ヶ月後を症状固定日と主張し治療費支払を求めたが、控訴審裁判所は、症状経過と主治医見解を理由に、被害者の主張を認めず、一審裁判所の判断を維持した。

 

③休業損害・逸失利益

被害者は配偶者である夫(75歳)と二人暮らしだった。一審裁判所は、被害者が家事全般を担っていたが、夫は退職後無職で特に日常生活に支障を生じるような心身の問題等はなかったことから夫が家事の一部を分担することは可能であったとして、事故年(平成30年)の賃金センサス女子70歳以上学歴計の平均賃金296万2200円の70%に相当する207万3540円を基礎収入として休業損害及び逸失利益を算定し、休業損害を30万0188円、14級後遺障害逸失利益を44万8869円と認定した。

 

被害者は、控訴審において、夫は結婚以来家事を一切せず事故後も身の回りのことすらしなかったことを理由に賃金センサスどおりの支払を求めたが、控訴審裁判所は、夫が自身の身の回りのことや家事の一部を分担することが可能であった以上、被害者が主張する事実は基礎収入に関する評価を左右しないとして、一審の判断を維持した。

 

④請求額と判決結果

被害者は、治療費等約200万円及び自賠責保険金75万円を受領後に、547万円余りの損害賠償金の支払いを求めて提訴したが、一審で約50万円の支払が命じられ、控訴棄却により一審判決が確定した。

 

小林のコメント

①被害者過失(事故状況)について

被害者は、前方の歩行者用信号機が青色であったため、そのまま直進して道路を横断しようと考えたようです。

 

一次的な責任は右折先の注視を怠った乗用車にありますが、裁判所の認定によると、自転車は道路規制に反する方法で横断していた以上、事故発生の責任を分担せざるを得ず、本件では、損害賠償金を3割減額されることになりました。

 

②治療期間(症状固定日)について

高齢になると、事故を契機に様々な症状が出て治療が長引くことがあり、症状固定日(治療終了時期)を巡って紛糾することがあります。

 

本件でも、治療中、主治医が考えた症状固定日を被害者が拒否した結果、その後も治療が継続されたという事情がありました。裁判では、このような事情も踏まえ、当初の主治医見解をもって症状固定日と認定されました。

 

③休業損害・逸失利益について

無職の高齢者であっても、自分以外の家族等のために家事に従事していた場合には、休業損害や逸失利益が認められます。

 

本件では、被害者の同居家族は退職した高齢の夫だけで、夫は自身で家事を担える健康状態でもあったため、被害者の家事労働は年齢別平均値の70%と評価されました。

 

控訴審裁判所は、夫が事故後も身の回りのことすら一切しなかったからといって一審裁判所の評価を左右するものではないと述べましたが、これは、専業主婦には現実の収入はないため休業損害等の算定は裁判所の評価の問題であることを明確に述べたものと解釈できます。

 

【2023年9月25日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか

 

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