【バイク事故判例㉚】信号待ちで停止中のバイクと右折乗用車との衝突事故により、左膝関節を骨折する等し、左膝に可動域制限が残存したバイク運転者(50代男性)が、乗用車の運転者に対し損害賠償請求を請求した事案

(平成29年3月2日大阪地裁判決/出典:ウエストロー・ジャパン)

関係車両

バイク(原動機付自転車/ホンダスーパーカブ)と普通乗用自動車

 

事故の状況

現場は、片側二車線道路が交差する信号機のある交差点。交差点を右折してきた乗用車が、右折先道路の対向車線の先頭で停止中のバイクに衝突した。バイクは、対面信号が赤色だったため、右折のために道路の中央線に寄って停止線の手前で停止中だった。

 

けが(傷害)

左膝関節脱臼骨折,左大腿打撲傷,左大腿挫滅創,両膝部打撲挫創,左膝靱帯損傷

 

治療期間

入院68日、通院実日数283日(約2年4ヶ月)

 

後遺障害

左膝の可動域制限,痺れ・違和感,鈍痛等の症状に対して、自賠責保険の認定は後遺障害等級12級7号(左膝の可動域制限。その他の症状は12級の評価に包摂される)

 

過失割合

乗用車100%(バイクは無過失)

 

判決のポイント

①過失割合

被告(乗用車運転者)は、衝突の原因は、バイクが対向車線との区分線ギリギリに停止させていたからだとか、バイクはクラクションを鳴らす等、衝突を避ける行動をとるべきであったと主張し、原告(バイク運転者)にも事故の発生に関し1割の過失があると主張したが、裁判所は、バイクの停止位置は何ら不適切でなかったこと、右折車に気付いたとしても咄嗟に衝突回避行動をとることは不可能であったことを理由に、原告には過失はないと判断した。

 

②休業損害

原告(バイク運転者)は、事故時、営業のためにカブに乗って契約者宅を訪問するなどの外回りの仕事をしていた。事故後は勤務先を1年間休業し、裁判で、その間の休業損害を請求したが、被告(乗用車運転者)は、事故後半年後には、デスクワーク等により就労可能であったとして、休業損害を争った。

 

これに対し、裁判所は、原告は、デスクワークが可能となった時点で職場復帰を希望したがその当時は復帰先がなかったため1年後にデスクワーク中心の仕事に復帰したと認定し、このような経緯を踏まえ、原告の請求どおり事故後1年間の休業損害を認めた。

 

③自宅改造費・装具代

原告(バイク運転者)は、本件事故による受傷及び後遺障害により,自宅1階及び2階の和式トイレの使用が困難となり、手すりの設置を余儀なくされたとして、トイレ改修費及び手すり設置費用として約160万円を請求した他、左膝装具の着用が必要になったとして、将来装具費61万円余りを請求した。

 

これに対して、裁判所は、トイレ改修費及び手すり設置費用については、トイレは1階及び2階いずれかを改修すれば足りる等として、合計約69万円の範囲で損害と認め、左膝装具については、将来にわたる着用の必要性を認めた上で、装具(価格10万8900円)の交換頻度を概ね3年に1回とし、原告の平均余命中10回の交換が必要となることを前提に、中間利息を控除して、原告の請求どおり認めた。

 

④逸失利益

原告(バイク運転者・事故当時52歳)は、事故前年の給与所得をもとに就労可能年である67歳まで14%(後遺障害等級12級の労働能力喪失率)の労働能力を喪失したとして逸失利益を請求したが、裁判所は、勤務先の定年年齢である60歳までは事故前年の給与所得によるが、67歳に達するまでの7年間は、症状固定時である平成26年賃金センサス(男子学歴計65歳~69歳)による平均賃金371万3400円を基礎収入とするのが相当であるとした。

 

小林のコメント

バイク運転者の後遺障害は12級(労働能力喪失率は14%)という比較的低位の等級でしたが、一方で、治療としては、事故直後に左膝関節形成術を受け、1年3ヶ月後には関節の拘縮に対し関節受動術を受け、これら2回の手術の前後を通じて通院リハビリを継続しなければならず、最終的に、治療期間は2年4ヶ月に及びました。

 

また、治療中から、トイレを洋式に改修する等、自宅の改装が必要になる等、足を受傷したことで、生活上の支障が甚大となったことが分かります。

 

また、逸失利益の算定は、原則として事故時の現実収入をもとに行いますが、年を重ねて現実収入が相当な水準に達している被害者については、勤務先に定年制度がある場合は、裁判では、定年年齢によって基礎収入を変更することがあります。本件でも、裁判所は、この手法により、逸失利益を算定し、原告主張よりも100万以上低額な金額を認定しました。

 

【2023年10月30日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか

 

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