【高齢者の交通事故判例②】横断歩道がない道路を横断中の高齢者にタクシーが衝突した事故で、タクシーと被害者の過失割合が問題となり、被害者過失が5%とされたた事例

(令和2年6月18日大阪地裁判決/出典:交民53巻3号736頁)

事故の状況

タクシーは、片側1車線の道路を北から南に向かい直進中、カーナビゲーションの画面に視線を移して脇見しながら進行し、進路前方を右(西)から左(東)に横断していた高齢者に自車を衝突させた。

 

年齢

91歳(男性)

 

けが

骨盤多発骨折等

 

入院等の期間

2日(事故の翌日死亡)

 

判決のポイント

裁判では、タクシー側から、次の理由で、被害者にも20%の過失があると主張されました。①被害者は横断歩道ではない場所を横断していた、②夜間のため歩行者の発見が容易でなかった。

 

これに対して、裁判所はまず、タクシー運転者にはカーナビ画面に視線を移し脇見をしたまま車を進行させた点で自動車運転上の基本的な注意義務違反があると述べました。また、現場付近は街灯などでやや明るく、運転者が前方注視を尽くしていれば、被害者の動向を把握することは可能で、タクシー運転者の過失は大きいと述べました。

 

一方、被害者についても、横断歩道ではない場所を横断歩行していた点に過失があるとしたものの、「被害者が高齢者であることをも考慮すると、過失割合は、タクシー運転者が95%、被害者が5%とするのが相当である」と、高齢者であることを考慮して、被害者に有利に過失を認定しました。

 

小林のコメント

判決によると、現場となった道路の最高速度は時速30kmで、タクシーの速度は時速30~37kmでした。規制内速度での走行だったこともあり、被害者が少しでも早くタクシーに気付いていれば衝突は回避できたのではないかと悔やまれます。

 

もっとも、本件の被害者は91歳の超高齢者だったため、タクシーに気付いたとしても、身体等の能力低下により衝突回避行動を取れなかった可能性が高いと感じます。

 

高齢者の交通事故の特徴は死亡率が高いことですが、本件でも高齢者事故の特徴が現実となってしまいました。

 

本件の道路状況からすると、過失割合の基本は被害者過失20%ですが、タクシー側に脇見運転という著しい過失があった上、被害者が交通弱者の高齢者であったことも考慮され、結果、5%という僅かな過失に止まったといえます。

 

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